2日間のCode for Japan Summitが終わりました。初めて参加した2017年*1と比較して、とても進化していると感じました。日本の状況は、マクロに見ると、なかなか厳しいです。Code for Japanやシビックテックも、まだまだニッチです。ただ、今回のサミットでは、少しでもよい未来を次の世代に渡すムーブメントの兆しが見えたと思っているのと、それを仕掛けるために「同じ船に乗りませんか」という思いでこの記事を書いています。
「最先端」宣言をしたものの
第二次安倍政権が発足し、2013年6月に「世界最先端IT国家宣言」が閣議決定されました。これは、経済の閉塞状態を打破する成長戦略の柱です。しかし、今はすっかり優先度が下がってしまった感じています。憲法改正や社会保障改革など、優先度がより高いものがあるという説明もできますし、デジタルを分かっている人材が政権中枢にいないという見方もできます*2。
宣言から6年経って、デジタル関連の法律がいくつか作られましたが、整備された21世紀のインフラであるデジタルIDやポータル/API、データ連携のしくみは、20年くらい前の設計のものではないでしょうか*3。
例えば、よく引き合いに出されるエストニアでは、プラスチックカードのデジタルIDが2002年に発行され、2007年にモバイルIDが導入されました。イギリスは、2006年にIDカード法が成立しましたが、2010年にカードを廃止する法律を可決し、民間IDを活用しています。インドは、2009年に政府が生体認証を活用したIDを導入し、2016年からモディ首相のリードにより「インディアスタック」と呼ばれるデジタルインフラとして注目されています。対して、日本はまだプラスチックカード(マイナンバーカード)で、デジタルIDを使うにはパソコンとカードリーダーが必要です。
多くの国で、政府においてデジタルは当たり前(Digital by Default)になりつつあり、わざわざ「電子政府」とは言いません。さらに言えば、デジタルはあくまでも手段であって、それによって公共サービスや民主主義のあり方がどう変わるのか、という未来の議論やトライアル*4が進んでいます。

そうした中で、18年の夏に、出島的な組織であるDX(デジタルトランスフォーメーション)オフィスが経済産業省に設置されました。DX室は、民間技術を活用して政府や行政を変革するGovtechに注目し、民間人材を登用。19年の夏には『21世紀の「公共」の設計図』というテーマで、政府の変革を提案*5しています。
経産省DX室がぶち当たった壁と希望
DX室は、Code for Japan Summitと連携して、前日にGovetechのイベントを開催してくれました。僕も登壇させていただき、自治体におけるパブリッククラウドの活用というお題での、北海道の森町の山形さん、東京都の萩原さん、大阪の田畑さんを招いたパネルディスカッションは、とても楽しかったです(控え室での会話はその数倍盛り上がった)。
サミットの土曜日のセッションでは、経産省初のアジャイルプロジェクトを担当したギルドワークスの市谷さんが「正しいものを正しくつくれているか?」という挑戦的なタイトルでセッションを行いました。生々しい、真摯で率直な失敗談でした。

「失敗から学ぶ」ということは、行政ではあまり起こらないのですが、このプロジェクトは数少ない例外になるかもしれません。具体的には、プロダクトマネージャー人材の強化などです。この日も、セッションの場には、経産省のキーマンがいました。
市谷さんは「このままでいい、という他意なき現状維持のモーメンタム」という言葉を何度か繰り返していました。一体どうやってその壁を破るのでしょう。サミットに、いくつか未来の光があったと思います。鍵は、経産省の報告書にあった「公共との関わり方」だと思います。別の言い方をすれば、テクノロジーはあくまでも手段であって、「意識や関係性の変容」が北極星のように道しるべになります。
サービスデザインの力
神戸市は、後に総務省で事業化した「データアカデミー」という、行政サービスを担当する「原課(担当課というような意味)」がデータを活用して行政サービスを改革するプログラムを開発するなど、注目すべき自治体です。ここで、いま「サービスデザイン」を活用して、行政サービスがさらに進化しつつあります。3年がかりで、粘りづよく行政とデザインの可能性を訴え続けた神戸市役所の砂川さん*6の静かな情熱に感動しました。
サービスデザインは、ニューヨーク市のService Design NYCのプロジェクト事例など、近年、注目されています。プロジェクトには、行政サービスの直接の受益者だけでなく、広く関係者が参加します。デザイナーの太刀川英輔さんは、デザインを「形を通して関係性をつくること」とよく話してくれるのですが、そのインパクトの大きさを、行政で強く感じました。
ウェブAPIの力
また、静岡市のウェブAPIにも希望の光が見えています。いま国では自治体のオープンデータ整備への取り組みを後押ししています。ただ、オープンデータの活用事例がそれほど多くない中で、関係者からなかなか理解が得られない担当者は大変な苦労をしています。静岡市では、災害情報やマラソンなどイベントによる道路規制などを、リアルタイムでオープンデータとして提供しています。
災害やイベントで、道路の状況(不通や通行止め)は刻々と変わります。これを行政のホームページで公開しても、活用は限定的です。これらの情報をオープンデータ化し、ウェブAPIで提供することによって、様々な民間企業のサービスや災害時の関連企業で活用されます。オープンに問題点も話してくれる静岡市役所の新庄さんのプレゼンは素晴らしかったです。

これは、想像を広げると、公共サービスのあり方が、民間企業との連携によって、進化しうることを示唆していないでしょうか。
DXの肝と東京都で起こっていること
これまで何度か書きましたが、デジタルトランスフォーメーションの肝は技術の良し悪しではなく「文化を変える*7」ことだと思います。文化とは「失敗を恐れないこと/認めること」「多様性を尊重すること」「不確実性をイノベーションの好機と感じること」などが、掛け声ではなく、日々の考え方や行動に体現されていることです。そして、そうした文化は、その核をつくるコアメンバーや、そこに加わるときのイニシエーションなど、醸成される条件があります。
そう、行政のデジタルトランスフォーメーションは、国が旗を振って多数の団体が参加する産官学連携のコンソーシアムや多数の関係者が最大公約数的につくる標準化の促進では、なかなか進みません。なぜなら、そこには文化の醸成がないからです。
東京都の副知事になった宮坂さんは、行政におけるデジタルトランスフォーメーションのうねりをつくるでしょう。金曜日の経産省のイベントやCode for Japanサミットにも駆けつけてくれました。
民間から行政に移ってもその”爆速”ぶりは変わりません。早速、「東京データハイウェイ構想」が発表され、IT人材の新卒採用の検討が開始されました。次々と、注目すべき施策が打ち出されるでしょう。
東京都の施策のいくつかは、国内外の行政ですでに先行して実施されているものも含まれます。東京よりかなり進んでいる地方自治体があるからです。これらの地域間で連帯が生まれるでしょう。そこから新しい文化やムーブメントが生まれます。そうした未来をつくることに、参加してみませんか。
筆者とシビックテック:2017年にシビックテックと出会い、GovTechにおけるシビックテックの活動を後押しする。23年夏から、水の循環に関わるオープンデータ活用を推進し、24年12月にCode for Groundを提案。2018年12月から24年11月まで(一社)Code for Japanの理事を務める。
*1:過去2年のサミット参加について。
Code for Japan Summit 2017:越境するワクワク感 - 太田直樹のブログ - 日々是好日
Code for Japan Summit 2018:経産省DX室、デザインの力 - 太田直樹のブログ - 日々是好日
*2:行政のデジタル化って、そんな大事な話なの?という問いには全て答えられないのですが、参考までに。
GovTechと未来のくらし、しごと - 太田直樹のブログ - 日々是好日
*3:日本のデジタル基盤の課題と突破口について。
電子行政で日本がイケていない構造と突破口(前編) - 太田直樹のブログ - 日々是好日
*4:今年のサミットに参加してくれた台湾のシビックテック団体、G0Vのセッションは刺激的でした。市民が積極的に参加する形で法律を作るという昔なら物理的にできなかったことがデジタルによって可能になっています。
*5:つまるところ「デジタル」は道具であって、それを使ってどのような未来をつくるのか、ということに、この報告書は焦点を絞っています。いろいろ議論はあるでしょう。議論すべきだし、もっと言えば、トライアルをすべきだと思います。
「21世紀の『公共』の設計図」(報告書)をとりまとめました (METI/経済産業省)
*6:『行政とデザイン 公共セクターに変化をもたらすデザイン思考の使い方』(ビー・エヌ・エヌ新社、2019年7月)のあとがきに砂川さんが登場している。
*7:英国のGDSや米国の18Fの例を見てください。