太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

電子行政で日本がイケていない構造と突破口(前編)

電子政府は2001年から国の重点政策課題とされているが、関心を持つ人はとても少ない。確かに、役場に行くことは年に数回あるかないかで、行政サービスのデジタル化が遅れていても、今日明日の暮らしにはほとんど影響がない。

ただ、顕在化しているところではビジネスのし易さについては明確にマイナスになっている。近い未来でいえば、子供の孤独など横断的な課題への対応力などで、大きな差がつくことは、下の欧州のグラフを見ると想像できる。

ここで紹介するマッキンゼーのレポート*1は欧州の電子政府の分析だけれど、日本がイケていない構造を紐解くヒントになる。さらに、いま、各自治体で官民データ活用推進計画の策定が進んでいるが、地方から突破口が開かれる可能性も示唆している。

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Digitizing the state: Five tasks for national governments, McKinsey&Company

チャートの横軸は5つの要素があって、図上の10カ国を見ると「人口規模」が6つ目の要素になりそうだけれど、それは脇に置いておく。それぞれについてレポートで紹介されているグローバルのベストプラクティスと、日本、それからスマートシティで野心的な取組みをしている会津若松市について比較してみたい。

グローバルBP vs 日本 vs 会津若松

1. Set a clear digital strategy and targets

デンマークは「印刷物や紙を使わない」という意思決定を国がしている。さらにそのKPIとして「企業の事務費用を年間460百万ドル(約420億円)下げる」というもので進捗を追っている。

日本は「オンライン化原則」が官民データ活用推進基本法で定められており、現状の棚卸しが指示されているものの、デンマークのレベルでの意思決定はない。また、効果という観点のKPIはない。

会津若松はData for Citizen(市民中心のデータ)というビジョンがあり、その中でチャートの縦軸と近い「コミュニケーション率」において、現状の3〜5%を30%以上にするという野心的なゴールがある。達成すると、国連の電子政府ランキング1位の英国に並ぶ。

2. Provide common IT platforms

共通PFはID、ポータル、データハブの3つがある。IDについては、エストニアが有名だが、変革例では、ドイツのIDが物理カードとリーダーが必要でイケていない(日本のマイナンバーはいまココ)のが、スマホでカードリーダー不要にして普及を図っている。ポータルについては、デンマークでは全てのデジタル行政サービスが、ポータルに集約されている。データハブについては、エストニアのX-Road platformが、250の政府のデータベースを束ね、1800の個人向けサービスがそれを利用している。130万人の国民について、X-Roadは年間5億7500万件(国民1人あたり単純計算で年間442件)情報提供している。

日本における3つの要素は揃っているが、課題は多い。IDである公的個人認証機能が載ったマイナンバーカードの普及率は10%で、改革前のドイツ。キラーサービスになるはずの納税申告では、公的個人認証とは別に16桁の利用者識別番号が必要という、縦割りの弊害が取り除けていない。マイナポータルについては、2017年1月に出したβ版が全くダメだった。開発手法を大幅に変えて10月に改良版を出したが、現状、利用率は低い。データハブは、情報連携が7月から稼働し出したが、10月にようやく軌道に乗り出したところ。

会津若松で注目すべきは、市民ポータルだ。「会津若松プラス」は、一人一人のニーズに応じて提供するサービスがカスタマイズされる。裏側には、日本郵政が提供する電子私書箱とIDがあって、これを使ってプッシュ通知など行政サービスが提供されている。大変使い勝手が良くて、30%のコミュニケーション率は射程に入っている。クラウドサービスなので、他の自治体でも導入が検討されている。ただ、これが展開していくと、国が提供するIDやポータルはどうするの、という問いが出てくるだろう。

後編では根深い課題を取り上げる

会津若松は、グローバルと比較してもワクワクするのだけれど、国レベルで見ると状況は厳しいと言わざるを得ない。”1億人の国のデジタル化は大変だ”と、EUのデジタル戦略の責任者で、元エストニア大統領のアンシプ氏に言われたことがある。司令塔となっている内閣官房のIT戦略室には、何とか踏ん張ってほしい。