太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

スマートシティでもやもや

最近、「スマートシティをやりたい」という声を聞くことが多くなった。そのとき心の中で「それって、インターネットをやりたい」って言っているのと近いんじゃないかな、と思っている(たまに口に出してしまってます。すみません)。

スマートシティは、インターネットほど大きな概念ではないけれど、いろんな考えや取り組みがある。現時点では、そこにある「もやもや」に可能性があって、そう感じられる取り組みであればいいと思っている。

落とし穴チェックリスト

  • 偉い人が”スマートシティをやりたい”と言っているが、周りが ”で、何をやりたいんですか?”と聞くことができない。
  • で、とりあえず ”官民なんとか”というハコをつくることが決まっている。
  • そこにベンダーさんが集まってきて、とても親切に ”グローバルの事例”やら何やら教えてくれる。
  • そうこうしているうちに、国の事業を取りにいくことが決まってしまい、立ち止まって考えることができない。

www.meti.go.jp

*471もの団体が集まるホットなテーマだ。

www.kantei.go.jp

*大阪のG20でも盛り上がった。

スマートシティ2.0

スマートシティは2000年代に入ってからいちどブームになった。成功例は、多分ない。そこで「スマートシティ2.0」は、前の世代が技術やベンダー中心であったのに対して、市民やユーザー中心であるとされている*1。聞くと良さそうなコンセプトだ。

背景には、テクノロジーの民主化がある。Code for Japan*2に代表されるシビックテックは大きな流れのひとつだ。

ギャップが生まれやすいのは、そうしたボトムアップの動きは、当事者が「スマートシティをやっている」と意識することがあまりないのに対して、行政や企業は「スマートシティをやるのだ」と決めて動くからだろう。

クラウドでの敗戦を繰り返さない

中国のスマートシティは、とても合理的に進んでいるように見える。代表例はアリババが仕掛けている杭州だろう。同社のCTOのインタビューを聞いていると、資源の最適活用が最大の目的で、スマートシティはその結果に過ぎない、と言う。最適活用に必要なのは、データとクラウド(特に、City brainと言われるインテリジェンス)ということだ。例えば、道路を最適に活用するには、自動車がどのように動いているかを知る必要があり(西側の批判を意識してか、そこにプライバシーはないだろう、とさらりと強調する)、それを解析する頭脳があれば、(日本のようにとは言わないが)延々と道路工事をする必要もなくなるというわけだ。

誤解を恐れずに言えば、こうした合理的なソリューションは、世界中からベストなものを買ってくるのがよいと思う。もちろん、国単位の産業競争力や、最近では安全保障も考えなくてはいけない。

前者においては、日本は、グローバルニッチなソリューションをいくつか握るか、グローバルの強者と組むことに活路があると思う。ここで戦略を誤ると、クラウドの二の舞になる。

摩擦が生じる領域

そう考えると、国内におけるスマートシティの検討は、インターネットにおける技術やガバナンスのように、最低限でよいのではないか(最低限だが、簡単というわけではない)。下手に力をいれて独自のことをやるより、グローバルの主流に合わせつつ、その中でグローバルニッチ領域でしっかり実をとることを、具体的に仕掛けていった方がよいのではないか。ここは、少しもやもやしていて、いい議論の場があればいいなあ、と思っている。

そうは言っても、いくつか摩擦がおきそうな領域がある。

ひとつは、日本のシステムは「作りこむ(SI)」という世界でもユニークなやり方をしていて、「つなげて使う(クラウド)」への移行に壁があること。具体的にはベンダーロックインと呼ばれる囲い込みだったり、行政の場合財務が「買うのはいいけど、使うのはダメ」と言ったり、いろいろある。

もうひとつ難しいと思うのは、いろんな「情報」をつくっている官民事業があること。道路交通情報や天気情報などなど。グローバルで主流の形でデータが自由に流通するのが理想だけれど、こうした団体は独自のやり方で「情報」に加工することが存在意義なので、壁になってしまう。

こうしたSIや情報は、これまでは経済的・社会的に役にたってきたので、どうしても摩擦が大きくなる。

このあたりが、実は行政や企業の偉い人の腕の見せ所だと思う。そういう想いのある人たちと一緒に僕も汗をかきたい。

もう一歩先の未来を創るときの問い

それと並行して関心があるのは、スマートシティの仕組みを基盤に生まれてくる価値だ。よく「生活の質(QoL)を上げる」というようなことがスマートシティで語られる。

最近、ウェルビーイング研究でわかってきたのは、考えてみると当たり前なのだけれど、幸せの要素は多様だということだ。そして、テクノロジーを使うことで、人と人との関係性がより豊かになったり、自分の可能性を拡張する自律性が得られたり、自然とのつながりが深まったりする、ということ。ここは、まだ「もやもや」していて、だからこそ可能性があって面白い。

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会津でやったハッカソンの様子。単なるデータ活用ではなく、ウェルビーイングやデザインについて探究した。

こうした価値創造を支える基盤や手段を、何でもいいのだけれど、いまのところはスマートシティと呼んでもいいのではないか。ひとつひとつは異なる価値創造でありながら、横断的に使える技術、ルール、プロセスがあるように思う。

いま、会津や福山でやっているのは、ここなんだと思っていて、いくつかアップデートがあるので、近いうちに書いてみたい。