太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

GovTechと未来のくらし、しごと

政府の基本戦略の柱は、未来投資会議で作られる。その分科会のひとつ「スマート公共サービス官民協議会」の第3回会合が先日開催され、出席した。第1回、第2回の課題出しを受けて、第3回は方向付けになる。

少し遠いけれど、10年後のくらしやしごとを描きながら

GovTechに関心を持つひとはごく限られている。改めてGovTechはなんで大事なのか、と聞かれると、答えるのはやさしくない。ただ、10年後にこんなことができるとしたら、その後ろにはGovTechの基盤があるはずだ。

  • 子育てや介護について、市民も設計に関わる民間のサービスが主体となっている
  • ビジネスのしやすさで、アジアで注目されている

経営は3年で目に見える変化が起こるけれど、行政は10年単位だ。法律を変える手続きは複雑だし、変化への抵抗も大きい。

そう、行政は法律に従って仕事をする。平成12年にIT基本法ができ、政府としてデジタル化を進めることとなった。ビッグデータやAIの時代が幕を開け、平成28年には官民データ活用推進基本法ができた。今年はデジタルファースト法*1が成立する。しかし、ストレートに言えば、この20年で行政サービスのデジタル化はほとんど進んでいない*2。政府と自治体を合わせた年間IT予算は約1兆円で、国民一人あたり毎年1万円を払っていることになる。

かなり突っ込んだ議論があった

会合には、会津若松市やつくば市といったデジタル化で実績を出している自治体*3と、アスコエ、freee、マネーフォワード、サイボウズ、またCode for Japanなどクラウドネイティブな事業者が参加し、かなり自由に発言する場となった。

以下は僕個人の感想で、会合のまとめではない。議事の概要はこちらで公開されている。

 課題1:使われない

  • 欧米ではこの10年で当たり前になったプロダクトマネージャーやサービスデザイナーが行政側にいない。日本の行政は、依然としてベンダー丸投げだ。結果、欧米ではデジタル公共サービスの利用率が4~8割に対して、日本は1割以下だ
  • サービスを使うときの認証手段となるマイナンバーカードが普及していない。また、要求される認証強度が、紙の手続だと判子なのに、デジタルだと電子署名(PCとカードリーダーを準備して、6桁以上の暗証番号を打ち込む必要)になるなど、利用拡大の壁になっている。

 課題2:のに高い

  • 行政システムをインターネットから分離(LGWAN)したために、パブリッククラウドの利用が進まず、高コストで使いにくいものとなっている。システムの調達は閉鎖的だ。自治体のシステムは3層になっているが、セキュリティなどの条件が外から分からず、新しい提案が生まれにくい。
  • 自治体ごとに「システムを作り込む」ということが変わらず、個別も全体も、あたりまえだが高コストになる。

 課題3:そもそも

  • 公共サービスは、ふるさと納税でやっているように、民間サービスをもっと活用すべきではないか。
  • もっと言えば、申請自体(例:児童手当の現況確認)を無くすべき。行政が個人や企業についてもっているデータを使えば、多くの申請はいらない。

変化が起きそうなところは?

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内閣官房資料より。細かい図だが、マイナポータルが後ろに引っ込んでAPI機能になり、フロントは民間サービスとなる。そのために、データが自治体から外に出ている。

個人については、子育てサービスで変化が起きそうだ。内閣官房の事務局が、関連省庁と突っ込んだ協議を行ったと思われる。上で挙げた「そもそも」まで踏み込んでいる。手続がなくなって、サービス化するのには時間がかかると思うが、フロントには民間サービスと官民データがあり、後ろにマイナポータルがある(会津若松など一部自治体で既に実装している)方式が広がりそうだ。

その際、重要なのは「システムをつくる」のではなく「クラウドにつなぐ(≒構築しない)」ことによって、コストを劇的に下げること。

デジタルID/認証については、フォローの必要がある。認証強度の柔軟化については、内閣官房のIT室で検討が進み、紙よりデジタルが不便という現状が変わるかどうか。また、普及率1割で頭打ちのマイナンバーカードの公的個人認証の機能をスマホに収納することについて、何年も「実証中」だけれど、一体いつ終わるのか、何が課題なのかが分からない。

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内閣府資料より

法人については、世界銀行の「Doing Business」の右肩下がりのランキングが上がるかどうか。政府は調査方法について不満を表明しているが、これはトップを100点とした相対ランキングなので、日本のデジタル化が相対的に遅いということで、肌感覚と合っていると思う。特に課題なのは、法人設立と納税・社会保障の手続き。これについては、課題認識はなされている*4が、根本的にアーキテクチャーを見直さないと、いまの5年に1回、パッチワーク的にシステムを更新するというやり方では難しいと思う。

Doing Businessのど真ん中ではないが、経産省のDX室は、補助金申請や中小企業向け施策の検索などで、利用者目線に立ったサービスの導入で突破口を開くだろう。プロダクトマネージャーやサービスデザイナーが当たり前のように組織にいる状態に、少しずつ近づいている。

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経済産業省の資料。総務省は「領空侵犯だ」などと言わないと信じたい。

また、経産省が提案している自治体向けアプリマーケットは楽しみだ。オープンデータやそれを活用したシビックテックが、目に見える形でくらしを豊かにしていく未来につながっていく。

*1:議員立法で準備が進んでいたが、閣法になったので、やや「骨抜き」になったというのが現時点の印象。この解説が分かりやすい。デジタルファースト法案/デジタル手続法案の逐条解説と感想 - ITをめぐる法律問題について考える

*2:電子行政で日本がイケていない構造と突破口(前編) - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*3:20%のデジタル利用率のインパクト | 会津若松で見えた未来 - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*4:国税庁は年末調整の電子化、総務省は地方法人税のワンストップ化を進めている。ただし、「使われる」サービスになるかはフォローが必要。