太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

3分で分かる「官民データ法」から「デジタルファースト法」への道のり

本気度が空回りしないか

地方自治体の官民データ活用推進計画は、正直、進んでいない。5月1日時点で都道府県で4団体、市区町村は15団体にとどまっている。2月時点では、8割の市町村において、検討すら行っていなかった。

一方、6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」は、「Society5.0」と「データ駆動型社会」への変革、と銘打っており、デジタル・ガバメントが柱のひとつになっている。2018年中に「官民データ法」に続いて「デジタルファースト法案*1」を国会に提出するという。

(ちなみに、「デジタル・ガバメント」は広い概念で、単に行政手続きをデジタル化するだけでなく、「21世紀の石油」と言われるデータが、どこで生まれ、どう流通し、どう使われるかが、特に生活に身近な健康や学びなどにおいて大きく変わる。結果として、経済やビジネスのあり方もガラッと変わるだろう。)

それを踏まえて、8月末の概算要求で、内閣官房のIT総合戦略室の予算は倍増の18.7億円となった。内閣官房の全体の予算は変わらないので、本気度がわかる。6月に改定された「官民データ活用推進基本計画(117ページ)」には、行政サービスの100%デジタル化、データヘルスxマイナポータルの連動など、野心的な政策が並んでいる。

共通基盤はいまが考え所

以前、デジタルガバメントを推進する5つの要素について書いた*2。その中で共通基盤、すなわちデジタルID、ポータル、データハブは厳しいところにきている。特にIDとポータルは、いま、見直しを行う必要がある。

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IDについては、マイナンバーカードの公的個人認証だけにこだわらず、事務によって使い分けをする。実際、暫定措置ではあるものの、来年からe-Taxにおいてマイナンバーカードが不要になったことで流れはできている。加えて、公的個人認証の有効期限を5回目の誕生日から、一時的に延長する。そうしないと、1回も使わないのに期限切れになる人が数百万人の規模ででてくるだろう。その人たちは更新するだろうか?

ポータルについては、カードとカードリーダーが必須で、ニーズに合わせたカスタマイズができないマイナポータルの日常の利用はあきらめた方がよい。地域性に合わせたポータルで、IDも求めるサービスによって選択肢を設ける。例えば、会津若松プラスは、利用者に合わせてポータルにでる情報がパーソナライズされ、「ゆうびんID」や「LINE」などIDを選ぶことができる。

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市区町村の戦略が重要

国の旗振りで、市区町村は2020年までに計画をつくることになるのだけれど、戦略上、大事なポイントがある。

ひとつは、前述の共通基盤について、政府に対して「意見」を出すこと。デジタルガバメントについて、国に先行している自治体がいくつかある。例えば、前橋市の一般社団法人TOPIC。とても使いやすい電子母子手帳を開発し、会津若松市など他団体でも使われている。また、今年、つくば市がブロックチェーンを使ったネット投票においても、基盤技術を提供している。

それだけに、マイナンバーカードやマイナポータルの限界はよく見えている。国は、そうした声をきちんと聞いた方がよい。

もうひとつは「ティッピング・ポイント」の設定だ。仮説としては、デジタル行政サービスの利用率30%。それも子育て世帯など、目標を早く達成するところを決める。この点を超えると、利用者の間ではデジタル化に対する安心や評価が生まれる。また、行政側の方では、業務の効率化が見えてくる。紙とデジタルの並存は効率が悪い。そして、100%デジタル化が現実的なゴールとして設定できる。

現時点で市区町村が公表している計画をみると「変革がどのように進むか」という観点が希薄で、メリハリが不足している。

経産省が空気を変えるか?

残念ながら、共通基盤は何も変わらず、そして、計画もメリハリがないまま進むかもしれない。そんな中でも、腹を括っているように見えるのが経産省だ。具体的には、デジタルトランスフォーメーションの予算を、今年の40億円から来年度は60億円に増額する要求を出している。

100億円で何をやるのか。詳細はまだ見えないが、未来投資戦略の「法人設立手続のワンストップ化&24時間以内完了」と「企業が行う従業員の社会保険・税手続のワンストップ化」と思われる。法人に絞るのは良い戦略だと思う。これを、民間から集めた精鋭チームで自らつくる、というやり方で実行するのではないか。

デジタルガバメントについて、英国のGDSや米国の18Fがよく取り上げられる*3。共通点はカルチャーの変革だ。いまの政府のやり方には、この視点が抜けている。

カルチャーを変えるために、英国では政府CIOを廃した。当時のGDSヘッドのMike Brackenはこう話している。

”CIOは調達や契約の管理屋になっている。僕らはベンダーにウェブを作らせるのではなくて、自らがウェブのようになるんだ。僕らのカルチャーやガバナンスはそれを反映させなくてはいけない。” 

また、米国にUSDSと18Fがあることについて、GitHubのBen Balterはこう書いている。ちなみに18Fは、シビックテック*4の代表的な団体であるCode for Americaを母体としており、日本のデジタルガバメントでもCode for Japanがカルチャーを作っていくだろう。

”紙の上では両者は似ているように見えるけれど、かなり異なるゴールによって、それぞれが挑戦しているんだ。18Fはカルチャーを広めるために作られた。そしてUSDSは信用を示すために設置された。”

経産省のDX室が、プロジェクトでインパクトを出すだけでなく、これまでの調達や開発における「文化」を変えるようなものになると、デジタルガバメントは、俄然、面白くなってくる。

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