太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

20%のデジタル利用率のインパクト | 会津若松で見えた未来

データ駆動社会から未来の事業を構想したい人は是非会津若松に行く*1ことをオススメする(できれば日帰りより泊まりで*2)。市民の5人に1人が行政のデジタルサービスを使っている*3地域は、多分、日本には他にない。

個人データは「わたしの」データという旗印

よく「個人データ」と言うけれど、データは「わたしの」思い通りにはならない。病院に行ったら、病歴やら飲んでいる薬とかはつたない記憶を辿って書くしかないし、学校で受けたテストのデータを分析することはできない。

2018年は未来から振り返ると変化点だろう。Facebookが大きな問題になっているけれど、やっていることは前から同じだ。けれど「わたしの」データがどう使われるのか。そのことへの関心が高くなっただけ。EUでは「一般データ保護規則(GDPR)」が5月から施行される。データの扱いについて、企業へ様々な対応が求められる。

さて、会津若松だ。2013年にData for Citizen(市民のためのデータ)という旗印を掲げたのだけれど、そこから小さく見えるけれど大きな一歩を踏み出した。この母子健康情報サービスだ。

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市が持っている検診や予防接種の個人データを「わたしの」スマホで見ることができる。このシステムは、ICTに力を入れている前橋市で開発されたもの。話は少しそれるが、このように地方に企画力や開発力があることは、その地域で次々とイノベーションが起こるだけでなく、地域同士が連携する動きにもつながる。

例えば、このサービスであれば、小学校にある歯科検診等のデータ連携も望まれる。しかし、幼児と小学生の間には、データ連携に大きな壁がある。行政で担当課が変わり、所管が文科省になるからだ。「わたしの」データなのに!前橋市や会津若松市が連携し、近い将来、この壁もぶち破るだろう。

ディープデータという戦略

「わたしの」という旗印がしっかり立つと、ユーザー選択(オプトイン)の元で、ライフタイムのデータが蓄積されていく。会津若松市では、これを「ディープデータ」と呼んでいる。ユーザーとの信頼関係の中で築かれるデータは、ただ量が多いだけのビッグデータにはない、様々な価値を産むだろう。

会津若松市では、健康・医療分野でディープデータを構築していく*4。市や病院、学校、スポーツメーカー、小売などが連携して、多面的なデータが生まれる。そのデータは「わたしの」意思によって、分析・活用されることになる。

Data for Citizenとディープデータは、両輪なのかもしれない。Facebookの事案は、巨大企業が収集する個人データが「わたしの」願わない形で使われうる現実を明らかにした。また中国では強大な国家が個人データを収集・分析し、個人の社会的な価値が評価されている。そういった中では、質の高いデータが生まれる限界があるかもしれない。

コンピューターサイエンス領域で、国内1位の学生数*5を有する会津大学があるこの地域で、この質が高いデータがあることは、ものすごいことなのではないか。

City as Platformとしての会津若松

そして、もう少し先を展望すると、こんな未来が見える。会津若松市のサービスは、他の地域に横展開が進んでいて、同じフォーマットでデータが(会津若松市に)蓄積されていく。その分析はこの地で行われる。

会津大学や大学から生まれたベンチャー、Code for Aizu、この地と交流する企業や個人によるオープンイノベーション。来年、ICTオフィスが完成するけれど、濃い個人が集まることを期待している。

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*1:市の企画調整課の山崎さんが丁寧に対応してくれると思います。なぜ会津若松は多くのハイテク企業が集積する「注目の場」になったのか?

*2:イノベーションが生まれる理由は、キーマンと交流することで見えてくる。なぜ市役所の市民課や健康増進課でガンガンICTを使うのか。なぜ国や県に予め相談せず、まずやってみるのか。なぜ公平性を大切にする市役所が一部の人しか使わないデジタルサービスに注力できるのか。例えば、市の情報政策課は会津大学先端ICTセンターの中にある。ぜひ一泊して、いろいろな場を訪れ、自分の目と耳で確認してください。

*3:海外との比較についてはこちら。電子行政で日本がイケていない構造と突破口(前編) - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*4:海外の状況についてはこちら。ただ、アップルやグーグルの動きは早く、半年後には大きな変化があるかもしれない。ヘルスケア業界で、ついに破壊的イノベーションが起こるのだろうか - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*5:毎年240名が入学。ちなみに公用語は英語。