太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

3分で分かるGov Techの注目すべき動き

政府の未来投資会議の柱の一つにGov Tech(分科会はスマート公共サービス)が立てられていることもあり、動きが活発だ。産官協議会*1が昨年末から開催されており、私も参加させていただいた。また年明けからGov Techのカンファレンスが活発化しており、国会では「デジタルファースト法」が議論される見通しだ。そうした中から見えてきたことをまとめてみた。

電子政府は2001年からやっており、一言でいえばうまくはいっていない。いきなり脱線するが、政府だけでなくあらゆる産業で、日本はIT化で失敗している*2。したがって、Gov Techについては、きちんと構造(詳しい説明は過去の記事を参照*3)を見ないと、一過性のブームと税金の浪費で終わってしまう。

1. 戦略:予算ではなく成果を

大きく打ち出されているオープンデータ100%とデジタルファースト100%は、目標としては物足りない。「やりました」と予算だけ消化して終わる可能性があるからだ。実際、電子申請の整備は進んでいるが、IT予算が使われただけで、利用率は低いままだ。

イギリスやデンマークのように利用率、さらには利用された成果を目標にすべきだろう。また、細かいようで効果的なのは、利用率にリンクした予算の使い方だ。例えば、スマートシティで注目される会津若松市は、30%という利用率を掲げて、IT企業への支払いは達成した利用率に応じて支払っている(現在は20%。ちなみに平均的な自治体は2%ほど)。

国の動きが遅ければ、県や市町が先行して戦略を立てればよいと思う。それによって、その地域の潜在力が大きく上がる。

2. 共通基盤:公民連携で活路を開く

電子政府の基盤は、デジタルID、ポータル、データハブの3つだ。日本では、マイナンバーカードの公的個人認証、マイナポータル、情報連携がそれらにあたる。

マイナンバーカードについては、2021年3月から保険証との一体化*4が決まり、普及率1割で横ばいという絶望的な状況から崖っぷちで踏みとどまった。マイナポータルと情報連携は、それ以前の段階だ。

どうしたらよいか。戦略目標について、ひとつだけ挙げるとすると「利用率30%」だと思う。これを下回ると、役場で「今までの紙の方がいいですよ」と言われてしまう。デジタルが例外対応になって手間がかかるからだ。

マイナンバーカードの交付は自治体の事業なので、30%普及率が見えているなら、能動的にアクセルを踏んだ方がよい。中途半端な普及は、住民も行政もメリットがない。

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加古川市、つくば市、会津若松市のキーマンと

もう一つの案としては、これは併用もできるのだけれど、自治体が公民連携で外にサービスを作ってしまうことだ。そうすると、LG-WANという平成初期のシステムから解放される。具体的には、行政の外にデータを置き、パブリッククラウドと民間IDでサービスを作ってしまうということ*5

会津若松市の子育てや教育サービス、加古川市のみまもりサービス、益田市の鳥獣被害防止など、こうしたやり方で低コストで質の高いパブリックサービスを実現している*6

3. 標準化:アジャイルはじっくり

いろいろあるが、動きがあるところでは、アジャイル開発の調達ルールがある。現在、経済産業省で補助金システムや中企庁のミラサポなど、いくつかのプロジェクトが走っており、注目される。

以前、英国GDSや米国18Fの話を聞いたが、アジャイル開発の契約方法、発注側の体制・開発プロセスが整うのはある程度の時間がかかる。

課題になるのは体制/人材だろう。同省のデジタルトランスフォーメーション(DX)室は、民間からの2名の採用に600名の応募があって話題になったが、プロダクトマネージャーは恐らく足りていないし、サービスデザイナーはまだいない。

内外から注目されているだけに、プレッシャーも高いと思うが、しっかりとした体制やプロセスを作りたい。Code for Japanの関さんが、浪江町のアジャイル開発について書いた論文*7を読むと、目指すレベルがよく分かる。

4. 制度改革:手続き主義をなくす

未来投資戦略のワーキングで議論になったことのひとつに「手続き主義を廃する」ことがある。具体例として問題提起したのは「児童手当の資格確認」だ。これはデジタル化すると電子署名、すなわちマイナンバーカードで4桁のPINではなく6桁以上の暗証番号を打ち込む必要があり、PCとカードリーダーが必要で、紙に比べて面倒になる。ならば手続きをなくし、行政が住民のデータに基づいてサービスを提供すればよい。そのような運用をしている国は増えている。

戦略において「手続きをなくしサービス化する」ことを具体的な目標と共に明記すべきだろう。そうしないと繰り返しになるが、紙より面倒なデジタル化に税金が投入され、誰も使わないという結果が待っている。

その上で経過的な措置として「認証強度を柔軟化する」、すなわち何でもかんでも電子署名ではなく、PINでよい手続を明確化することもぜひやるべきだ。

5. パイロットプロジェクトとスキル構築:文化を変える

3と重複するが、経済産業省のDX室が「ありたい姿」を明確化するだろう。総務省の行政管理局(システムの調達ルールなどを所管)や自治行政局(自治体システムを所管)、そして内閣府のIT総合戦略本部とのギャップが生まれるかもしれない。CIO補佐官の選考を見ていると、それを感じる。

また、自治体ではデータアカデミー*8を通じて、IT担当だけでなく、いわゆる原課と言われる行政サービスを担当している部門のマインドセットの変化が生まれている。

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DX室のDigital or Dieは本気だ

電子政府の組織について各国がモデルにしている英国では、政府CIOの組織を廃した。その大きな理由は、利用者主体のデジタルサービスを提供するためには「文化を変える」必要があったからだ。それは、例えば、ベンダーを「管理する」ことから「共につくる」ことへの転換。こうした変化を象徴的なプロジェクトを通じて、内外に見せていく必要がある。 

*1:2018年10月、11月に開催した。かなり突っ込んだ議論をしているので議事要旨もご覧いただきたい。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/sankankyougikai/index.html

*2:関西財界セミナーで考えたこと - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*3:電子行政で日本がイケていない構造と突破口(前編) - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*4:正確にはマイナンバーカードを使った保険資格のオンライン確認で、保険証が無くなるわけではない。

*5:データ利活用やパブリッククラウドの活用が本当に進むかどうかは、この記事を書いている時点では予断を許さない。2月25日にOGC(オープンガバメント・コンソーシアム主催の内閣官房IT室、経産省、総務省のキーマンが集まるシンポジウムがあり、注目される。【イベント】OGCシンポジウム2019 Cloud by Defaultによるデジタルソサエティ実現に向けて(2/25開催) - 一般社団法人 オープンガバメント・コンソーシアム

*6:“中村氏は、福島の会津若松に現センターを構えて約7年が経過する。データとテクノロジーを活用することで市民生活の利便性を高めるスマートシティを推進するため、市民主導の「デジタル・シチズン・プラットフォーム」を提唱している。産官学連携で、データを行政の基幹システム(LGWAN)の外に置き、子育てや教育などさまざまな施策を「クラウドバイデフォルト」で取り組める環境を整備し、実証実験に取り組んでいる。 加古川市のみまもりサービスも同様のやり方をしている。” GovTechで「役所」はどう変わる? 行政が取り組むデジタル変革の未来と現在 |ビジネス+IT

*7:情報処理学会で2016年にデジタルプラクティス賞となった関治之さんの論文『浪江町におけるタブレットを利用したきずな再生・強化事業-住民参加型の課題定義から開発プロセスまで』 https://www.ipsj.or.jp/award/dp_award.html 

*8:脱「様子見」のチャンス|官民データ活用を駆動するデータアカデミー - 太田直樹のブログ - 日々是好日