バズワードになりつつある「関係人口」は、可能性がある反面、補助金の新たなネタとして消費されてしまうかもしれない。この概念が最初に唱えられたのは1988年なのだけれど、すぐに普及したわけではない。
時系列でみることで、どのような問いが浮かび上がるだろうか(随時修正・更新)。地域にとっては、中央頼みではない、内発的な発展のモデルが、ここから生まれるだろうか。
1987年
「多極分散型国土の形成」をキーコンセプトとした第四次全国総合開発計画(四全総)が閣議決定された。東京一極集中が政治・行政の課題として初めて認識された。
1988-90年
「信託住民」の提案がなされる。1人は都市社会学の磯村英一氏*1、もう1人は農村社会学の小川全夫氏*2。具体的には、物理的に住んでいる人に限定せず、株主のように離れていても地域にコミットすること(磯村)やカネ、労働、情報等で地域の外から関わる人を活用すること(小川)。
このころ、地域振興策として「ふるさと創生」政策のもと各自治体に1億円ずつ配られた。地方創生の走りだ。
90年代
バブル崩壊で東京一極集中は一旦沈静化したが、90年代後半から再び東京への人口集中が加速。一方で「信託住民」という提案が、広がることはなかった。
2001年
「地方にできることは地方に」という小泉首相の所信表明演説から始まり、その後、国と地方のお金のやりとり、補助金・地方交付税・税源を見直す「三位一体改革」が打ち出され、追い詰められた自治体は平成の大合併へ向かっていく。
2002年
関原剛さんが新潟県上越市桑取谷で、かみえちご山里ファン倶楽部を設立。独自の「クニ」という単位での持続可能なコミュニティづくりを始める。2005年に平成最多の14市町村が合併し、地域の自治が厳しくなった上越市での取り組みとして、全国から注目される。
関原さんは、2種ムラ人・3種ムラ人という形で、クニと外との関係も提案*3。
2003年
島根県海士町が「合併しない宣言」をし、「自立・挑戦・交流」を経営方針として掲げる。海士町と関係する人が少しずつ増え始める。
2005年
甲斐良治さんが、若者のライフスタイルの変化を取り上げる。
農山村、とくに山村に向かう若者が増えていることに気づきはじめたのは今年になってからのことだった。年齢を聞けば圧倒的に32歳前後。これをひそかに「32歳ライン」などと称し、若者たちの後を追いかけてみた。すると当初想像していた以上の数の若者が、想像以上の「仕事」を農山村につくり出していた。その仕事とは、戦後60年、「ふるさと」を守り抜いた祖父母世代の知恵や技を、その消滅のスピードと競い合うかのように受け継ぎ、都市生活者や次世代の子どもらにも引き継いでいくこと。まるで農山村の文化総体の継承を仕事としていたのである。(『若者はなぜ、農山村に向かうのか』現代農業、2005年8月)
2007年
明治大学の小田切徳美教授が「信託住民」に改めて光を当て、後の「ふるさと納税」になる原案を総務省に提出*4。
2008年
地域おこし協力隊が提唱され、翌年に制度化される。初年度の隊員は、全国で89人。
2012-13年
リクルートの研究員、三田愛さんがコクリ!プロジェクトを立ち上げる。実証フィールドのひとつ、熊本県南小国町で「第二町民」制度が生まれる*5。
長野県小布施町の小布施若者会議で「第二町民」の企画がトップとなる*6。
豊岡市で大交流課が設置される。谷口雄彦さんが初代係長に。
地域おこし協力隊が急増し、1000人を超える。
2014年
まち・ひと・しごと創生総合戦略が閣議決定され、東京一極集中是正を掲げる。しかし、毎年戦略が改訂される中で、実現困難なことが明らかに。
日本だけでなく、世界中で都市と地方の格差の拡大が続く*7。
2016年
ソトコト編集長の指出一正さんが「関係人口」に注目する。
「関係人口とは、言葉のとおり『地域に関わってくれる人口』のこと。自分でお気に入りの地域に 週末ごとに通ってくれたり、頻繁に通わなくても 何らかの形でその地域を応援してくれるような人 たち」(『ぼくらは地方で幸せを見つける』)
2017年
「拡張家族」を掲げるCiftが渋谷にオープン。40名が暮らす。多拠点居住者が多く、その中のひとり大宮透さん*8は、小布施町の行政職員。
建長寺で「鎌倉資本主義」の会合が開かれる*9。発起人のひとり柳澤大輔さんは、翌年にまとめた『鎌倉資本主義』で、経済資本(財政や生産性)、社会資本(人とのつながり)、環境資本(自然や文化)をバランスさせる資本主義のあり方を提案。
2018年
2月:雑誌ソトコトが『関係人口入門』を特集。
4月:総務省が「関係人口」創出事業を開始。
5月:島根県海士町の島前高校からはじまり全国に広がった「地域みらい留学」の説明会に1000人の親子が参加。
9月:国土交通省の「住み続けられる国土専門委員会(第6回)」に、小田切さんが「「関係人口論」とその展開」を提出。
12月:リクルートのトレンド予測に多拠点居住者を表す「デュアラー*10」が登場。
*1:『東京遷都と地方の危機』東海大学出版会、1988年
*2:『中山間地域における農業・地域振興の課題』農政調査委員会、1990年
*3:第九回インタビュー:関原 剛さん(新潟県上越市)|伝えたい、森の今:あの人の森は?|私の森.jp 〜森と暮らしと心をつなぐ〜
*4:「志のある資金移転システム」として提案したが、その精神が失われつつあるという小田切さんの危機感から2018年に再掲されたもの。「信託住民」構想 - 全国町村会
*5:都心の「第二町民」も参画 種火をおこし、地域を起こす「共創」 | 月刊「事業構想」2015年5月号
*6:「小布施若者会議」 交流が産んだイノベーション創出都市 | 月刊「事業構想」2016年3月号
*7:地方は世界的に厳しい、エコノミスト誌とMITメディアラボの記事 - 太田直樹のブログ - 日々是好日
*8:長野と東京の2拠点生活をする男性が、「ホテルで一人暮らし」から「39人との共同生活」にシフトした理由|渋谷の拡張家族ハウス「Cift」が描く未来の生き方 #005 | NEUT Magazine
*9:鎌倉資本主義は、関係人口を直接取り上げているわけではないが、社会(関係)資本に注目していること、内発的・持続的な地域経済のモデルを志向していることから、年表に加えた。