「僕らはいま日本の将来の岐路に立っている」という記事は3万人くらいの人に読んでもらった。では、どうしたらよいのか。そのヒントがたくさん詰まっている本「地元経済を創りなおす(岩波新書)」が出版された。
ちょうど、著者の枝廣さんがこの本の最後の校正をしているときにお会いして、日本の将来シナリオの話をした。まえがきには、京大と日立の共同研究の話から始まっている。
「いずれ、変化は必要だ」と多くの人が考えているでしょう。しかし、わずか10年足らずのうちに分岐点がやってくる。そのまえに、大きく地方分散シナリオに転換しなくてはならない。しかも、地域内の経済循環をしっかり回せるようにしておかないと、地方分散シナリオすらも持続不可能になってしまう。ー 地元経済を「いま!」取り戻さなくては、創りなおさなくてはならないのです。(まえがきより)
「 漏れバケツ」って何だ?
この本の白眉は、経済を地域に取り戻す具体論がある第5章と第6章だろう。第5章は、身近な「食べる」ことについて。例えば、中山間地域では、食料費1000円のうち、地元でつくっているのはわずか14円*1!ただ、頭では課題はわかっても、いざ、日々の消費や仕入れになると、なかなか行動を変えることができない。それをどうするか。
第6章は、地域経済の「最大の漏れ穴」であるエネルギーについて。日本のエネルギー政策の課題にもしっかり触れつつ、地域にエネルギーを取り戻すことによって、経済や雇用への大きなインパクト*2から、集落が活気を取り戻す様子まで、具体的に書かれている。
こうした取り組みをするためには、地域経済の「見える化」が大切になってくる。第2章から第5章まで、「漏れバケツ」モデルという聞きなれないものから、産業連関表という難しそうなものやRESASという最新のツールまで、実践者としての観点から、地域経済の分析と診断についての解説がある。
ファンキーに行こう!
楽しいのは第9章。英国にある人口8千人の小さな町、トットネスの話*3がある。かつて地元を支えていた造船業や乳業会社、芸術大学などが次々と撤退。国が変わっても、地方が衰退していく様子は変わらない。どうするのかと思ったら、トットネスでは明るいノリで、「地域経済を取り戻す(Re-Economy)」プロジェクトが次々と立ち上がった。英国最大のコーヒーチェーンが進出してきたときの、町の人の反対運動はファンキーだ。なぜそんなことが起こったのか。その理由が書かれている。
注:トットネスで作られたポスターのClonestoppingは、コピーみたいな町にするな、という意味。もう一つは、当時ヒットした映画「Trainspotting」のポスター。
「トットネスの話は面白いけど、日本では難しい」と思ったら、第8章。水俣市や下川町で起こっていること読むと、ワクワクするだろう。
「地方を元気にしたい」と思っている人は、行政や民間で増えていると思う。ただ「あきらめ」や「燃え尽き」が広がっているようにも感じる。5年、10年の取り組みを、楽しみながら、しっかりした足取りで進んでいく力を、この本は与えてくれる。
*1:もちろん貨幣経済の外の、自給自足や物々交換はある。
*2:人口3350人、地域経済規215億円の下川町では、エネルギーの購入費として13億円が域外に漏れている。それを域内で賄うと、波及効果も含めて28億円の経済となり、100名の雇用を生み出す。
*3:枝廣さんに読んでいただいたワークショップの記事。人口8千人の世界トップ10のファンキーな町トットネス、日本の地方もハジけるかも - 太田直樹のブログ - 日々是好日