太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

地方は世界的に厳しい、エコノミスト誌とMITメディアラボの記事

NewsPicksの記事で、補助金バラマキの地方創生はダメだ、ただし、地方には人材が育つスペースがある、という基本は楽観的な話をした。

さて、エコノミスト誌に、先進国において、豊かな地域と貧しい地域の差が広がっているという特集*1があった。タイトルのIn the lurchは「見放される」「見捨てられる」という意味。

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The Economist, 21st Oct 2017

英国のEU離脱や米国のトランプ政権誕生の理由とされる「取り残された人々」について、地域という観点からまとめたものと言える。

まず事実として、豊かな地域と貧しい地域の差が、過去20年で拡大しているという分析がある。特に英国ではひどい(1人当たりGDPで20倍くらいの)差がついている。ついでドイツ、米国。ただし、日本については差がやや縮まっている。

では、なぜ差が拡大しているのか。

・大きな要因は、よく言われていることだが、グローバル化+資本主義。

・興味深い分析として、地域の切り口で見ると、各産業における上位4都市(米国)のシェアが上昇していることと、加えて、最新技術がそれらの都市から地方に伝わるスピードが遅くなっている*2こと。よって、地方はグローバル化の中で、競争力を失ってきた。

加えて、豊かな都市では、所得の伸びより不動産の伸びが高く、貧しい地域からの移住が難しくなっている。実際、米国でも欧州でも地域間の移動が年々減少している。また、昔ならば、貧しくなった地域は放棄されたが、今は国の手厚い補助があって、貧しいまま取り残されている。

打ち手として、補助金はその場しのぎにしかならないと結論づけている。希望があるのは、技術が拡散するスピードをあげるような投資をすること。期待できる一つの試みとして、ドイツに69ヶ所あるフラウンホーファ研究機構*3を挙げている。

また、政治家や経済学者は、グローバル化を手放しで礼賛しすぎて、これらの変化を見過ごしてきた、としている。

 

もう一つ、MITメディアラボの研究*4は、2013年のオックスフォードの分析に、地域の視点を入れ、AIやロボットが雇用に影響を与えるのは、大都市よりも、人口10万以下の小都市というもの。

理由は、小都市の仕事が、テクノロジーが代替しやすいルーティンなものが多いのに対して、大都市ではクリエイティブな仕事をする人が集積し、その人たちの間でイノベーションが起きやすいから。

 

となると、残された時間は10〜15年くらいだろうか。その間に、テクノロジー人材が活躍できるようなコミュニティが地方にいくつできるか、それによって未来の社会のかたちが大きく変わってくる。

*1:Many places have lost out to globalisation. What can be done to help them?, The Economist 21st Oct 2017 http://www.economist.com/news/briefing/21730406-what-can-be-done-help-them-globalisation-has-marginalised-many-regions-rich-world?frsc=dg|e

*2:都市に拠点を置くグローバル企業は、海外に優先的に投資する

*3:全体の予算は2800億円。60%を企業が出し、40%を州政府ないしは国が負担。研究機構としては、地域の企業(特に中堅企業)に役立つ応用研究をしないと予算が取れない。

*4:MIT Tech Review: AIやロボットが「仕事を奪う」のは小都市から、MITメディアラボ