太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

2018年のまとめ

2018年は、デジタルテクノロジーに対する不信や反発が顕在化した年として、歴史に刻まれるだろう。Facebookの事案やGoogleのスマートシティ計画への反対運動など、様々な出来事があった。

世界的なTechlashとあきらめが際立つ日本

この調査は、世界経済フォーラムの記事でとりあげられて話題になった。本ブログでも1万以上のPVとなった。

kozatori7.hatenablog.com

「デジタル技術が社会を良くする」と思う人の割合が、主要国平均で半数に満たないこと。中でも、日本の2割という低さから、何を考えるべきなのか。また、ここでも中国は突出している。ただし、プライバシーや倫理のあり方が見直さなければ、持続性や拡張性はないだろう。

国や企業が言う”人間中心の技術”というようなありふれたお題目では、通用しない時代に入りつつある。価値を生み出す基盤について、技術、デザイン、制度にまたがった本質的な取り組みが求められる。

ウェルビーイングとシビックテックが拓く未来

技術は人を幸せにするのか」という問いに、2010年代になって、ウェルビーイングの研究者が正面から取り組むようになった。2020年代には、日本ならではの価値*1踏まえて、商用サービスに実装するところまで、研究が進むだろう。

また「技術を自分たちの手に取り戻して、課題を解決したい」という動機にもとづくシビックテックの活動は2000年代後半から本格化したが、日本では、2013年に設立されたCode for Japanを中心に活動が広がり、アジャイル開発において経済産業省と共同プロジェクトを実施するところまで発展した。来年からは、理事としてCode for Japanの次のステージをつくることに参加する。

10月に会津若松で3日間行ったプロトタイピング合宿では、ウェルビーイングやシビックテックの専門家がメンターになり、パナソニックのエンジニアやデザイナーと、ハッカソンの経験値が高い地元の学生、行政職員、起業家等がチームとなった。

kozatori7.hatenablog.com

生まれたのは、例えば、空間を遮断するドアが、ドアノブを通じて気持ちを伝えるという試作品。パナソニックの住宅デザイナー・家電エンジニアと会津大学のソフトウェアエンジニアの協同作業から生まれた。合宿は、ウェルビーイングの価値の可能性を肌で感じる、「半年間、事業開発でやったことをこの3日で超えた」という声もあがるような場になった。

ラーニングコミュニティの可能性

経営学には3つのアプローチがある*2が、日本では「経済学原理」に偏重している。他の2つは「心理学原理」と「社会学原理」だが、日本ではマイナーだ。ここに、イノベーションについて重要な理論があり、今年実施したプロジェクトの基礎となっている。

結論を言えば、次の2点に集約される。

  1. 計画するよりも行動することで、未来を作ることができる(Sense Making理論)
  2. イノベーションの要諦は組織やしくみより人であり、組織を越境する人材が新たな価値を創り出す(Strength of weak ties*3とStructural holes*4理論)

これらはシンプルかつ引用や実践が豊富な理論だが、KnowingからDoingへ至るギャップは大きく、越境人材になるには、さらにDoingからBeing(人としてのあり方)に踏み込むことが求められる*5

f:id:kozatori7:20181229104525j:plain

ファシリテーションをするとは思わなかった

ディレクターとして2年前から運営に関わってるコクリ!プロジェクトは、試行錯誤している最中は分からなかったが、まさにBeingまで踏み込む越境人材(Boundary Spanner*6)の学習するコミュニティであり、今年はファシリテーターとしても貴重な経験を積んだ。

kozatori7.hatenablog.com

Unlearnできない日本:メディアと行政

既存メディアはいよいよ末期だと思っている。規制改革推進会議への投げ込み*7は、正直なところあまり手応えがなかった。ただ、地方局に見えている可能性は、広がってほしいと願っている。

米国や英国で起こったことを見ると、地域メディアが衰退する地域では、都市との分断が進み、ポピュリズムが拡大する懸念がある。今年2月、英国のメイ首相は次のようなスピーチをしている。

The decline of local journalism is a threat to democracy and is fueling the rise in fake news

kozatori7.hatenablog.com

行政については、2001年のe-Japanから取り組みが始まった。同年、Amazonが日本でサービスを開始した。電子政府は時が止まっている。使われている技術は2000年代のものだ。未来投資会議に投げ込み*8をしたが、どうだろうか。

経済産業省のDX室が風穴を開けることに期待をしている。また、神戸市やつくば市、会津若松市といった自治体がタグボートのように全体を引っ張っていくだろう。

kozatori7.hatenablog.com

ついに変わり始める教育、一方ヘルスケアは?

評議員として関わっている地域・教育魅力化プラットフォームの地域みらい留学や、審査員としてお手伝いしているマイプロ、そしてコクリ!プロジェクトのメンバーが進めている未来の学びの取り組みから、300年つづいた教育システムの転換を感じている。

kozatori7.hatenablog.com

ヘルスケアについては、変化の兆し*9を探索している。テクノロジー(企業)への不信が高まり、難易度は増している。

 

2月末に会社を設立し、複業ライフに入った。仕事の基準は、次世代を創る尖った個人(30代が中心)と何かを仕掛けること。ウェルビーイング、ソーシャルデザイン、シビックテック、社会に開かれた学び、などなど。組織にいれば上司と部下という年齢差だけれど、フラットな関係で仕事をさせてもらっていることがありがたい。

高度成長期に輝かしい実績をつくった上の世代から受け継ぐレガシーもあるだろう。ただ「本来どうあるべきなんだ」と非連続に考え、「(答えが自明ではない)大きな問い」を設定したい。教育、医療、メディア、政治など領域はいろいろある。

課題を解決して世の中が変えるのは次の世代になるだろう。小さくても尖っていて具体的なことを自分の世代で始めたい。

来年が皆さんにとって良い年になることを祈っています。

*1:ウェルビーイングには決まった学会がなく、30~40代の気鋭の研究者が学際的なネットワークをつくっている。2016年11月から3年間のプロジェクト「日本的Wellbeingを促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及」は代表例。

*2:早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授が「世界標準の経営理論」で体系化している。

*3:「弱いつながりの強さ、Strength of Weak Ties」は、社会ネットワークの重要な理論。1973年にスタンフォード大学のマーク・グラノベッターが提唱した。その核心は、多様な、幅広い情報を、素早く効率的に遠くまで伝播させるのは、弱いつながりである、ということ。

*4:「Structural Holes、SH」は、1980年代からシカゴ大学のロナルド・バートが理論を発展させてきた。異なるネットワークの結節点には質の高い情報が集まり、パフォーマンスが高まる。SHの強さはソフトウェアで数値化でき、様々な業界、職種で実証研究が積み重ねられている。

*5:先端のリーダーシップ教育では、Knowing、Doing、Beingという枠組みが近年取り入れられている。「ハーバードはなぜ日本の東北で学のか」山崎繭加著/竹内弘高監修、2016年

*6:Boundary Spannerは1970年代から研究されているが、世界的な非営利のリーダーシップ研究機関であるCCLによる”Boundary Spanning Leadership” 2011に実践的な知恵がある。越境人材(Boundary Spanner)が組織で活躍するための要諦は2つある。ひとつは、安心安全の場をつくること。職能はもちろん、セクターを超えて、信頼関係を築いていく。もうひとつは、組織を超えて共有できるビジョン、アイデンティティ、文化等を持つこと。

*7:放送をめぐる規制改革ワーキング:第26回投資等ワーキング・グループ 議事次第 : 規制改革 - 内閣府

*8:産官協議会のスマート公共サービス:未来投資会議 産官協議会

*9:ヘルスケア業界で、ついに破壊的イノベーションが起こるのだろうか - 太田直樹のブログ - 日々是好日