太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

中国企業で働くことが、当たり前になる日

北京大学のエグゼクティブMBA向けの授業をやった。みっちり3時間。場所は、日本橋にある早稲田大学ビジネススクール。
彼らの優秀さに、内心舌を巻いた。中国人への授業は、15年ほど前に、同じ早稲田大学の大学院で3年ほどやったことがある。日本人では、神戸大学のMBAで6年講義していた。その体験に照らし合わせての実感だ。

大きなテーマは「成熟した経済における成長戦略」。中国は、実は2011年から労働人口が減少に転じていて、今後、急速に高齢化が進む。国の大きさは異なるが、日本を将来の中国と見立てて、議論を進めた。

具体のテーマは二つ。ひとつは、都市化と地方分散のシナリオ分析。議論の前は、圧倒的に「都市化が進む」という意見が多かった。そこで、グループを「都市化が進む」と「地方分散に転じる」に分けて、議論を戦わせた。後者のグループから挙げられた論点は3つ。
・都市化における、環境・治安・社会保障などは、今後、どう変わるか?
・新しい産業では、都市集中による生産性向上のメリットは今とどう異なるのか?
・ミレニアル世代は、労働や消費についてどのような価値観を持っているのか?

議論の後は、地方分散に転じるシナリオに賛同する意見が格段に増えた。ちなみに、中国における豊かな都市と貧しい地域の経済格差は約13倍らしい。これは、格差トップのイギリスの次、ドイツや米国より上だ*1。昨年もそうだったが、彼らの地方活性化への関心は高い。

二つ目は、九州に投資するとしたらどの事業か、そして、行政に求めることは何か、というテーマ。

興味深いのは、AIやロボットといった事業は九州ではやらない、という意見が圧倒的だったこと。そして、投資対象は、農業が多かった。理由は、産業立地の優位性。AIは日本以上の投資と技術の蓄積が中国に出来つつあり、市場でのトライアルも開放的。ロボットも早晩そうなる。しかし、農業では、自然という資本やそれに紐づくブランドや文化によって、日本には持続的な優位性がある。ただし、生産性や流通改革への投資が必要。こういう見立てだ。

AIやロボットについては、データポータビリティ*2を論点にあげ、それを行政が牽引するなら、日本の産業立地も変わる、という議論もあった。

 

中国のビジネススクールが、欧米勢に混じってトップ20にランキングされる*3のは、もう珍しいことではない。しかも女性の比率が高い(北京大学のMBAだと4割強)。中国企業といえば、国営のイメージが強いが、この世代はグローバル経営を最初から視野に入れるだろうし、そういった企業が「外資系」として、日本の若い世代の選択肢に入る時は、それほど先ではないと思う。

*1:先進国における地域格差について書いたたもの。地方は世界的に厳しい、エコノミスト誌とMITメディアラボの記事 - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*2:データポータビリティ/PDSも含め、サイバー空間のガバナンスについて書いたもの。誰が2027年の世界を動かしているのか - このレポートは必読 - 太田直樹のブログ - 日々是好日

サイバー空間にも国境が必要か?岐路にある僕らができること - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*3:ランキングでは卒業後の給与が評価されるので、卒業生は欧米のトップスクール並に稼いでいるということ。日本のビジネススクールとは全く異なる。