太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

マイナンバー制度とデジタル庁や自治体への期待

マイナンバーが炎上気味です。ツイッターで「#マイナ返納運動」がトレンド入りしたり、内閣支持率の低下の一因が「マイナンバー問題」であると言われたりしています。

いろんな情報が飛び交っています。

マイナンバー制度は社会の基盤になっていくと考えているので、この機会に

A) 何が「問題」のポイントなのか?

B) マイナンバー制度はそもそも何を目指していて、なぜいまのしくみになっているのか

についてまとめてみました。

マイナンバー制度とは何か

まずB)から。2020年にパンデミックが始まり、行政の対応について様々な課題が指摘されていたときに、このブログでまとめたので、リンクを下に貼ります。

kozatori7.hatenablog.com

ひとことで言えば「日本のマイナンバー制度は、セキュリティとプライバシーを高めて、最大限の利用範囲を目指す」ものになっています。

例えば、今年の2月にリニューアルされ、引越しワンストップなど大変使いやすくなったマイナポータルや、中止を求める声もある保険証のワンカード化など、2010年の国家戦略室の中間とりまとめで、国民の期待や海外との比較などが整理されています。

今回明らかになった様々なミスを、かつて政権交代につながった「消えた年金問題(2007年)」をイメージして炎上や政局化したいメディアや個人については、「マイナンバー問題」は政権批判の道具なので、議論はあまり意味がないように思います。

上記のマイナンバーが目指しているものが共有され、「マインナンバーは大丈夫かな」ということを自分なりに考えることは大事だと思いますので、考える補助線として、3つの問いを立ててみます。

問い1:失敗への対応力

マイナ保険証に別の人の情報が紐づけられて医療情報が見られてしまったり、病院で保険資格の確認ができずに一旦10割負担になってしまう、公金受取口座が別の人の口座情報になっているなど、様々なミスが明らかになっています。

政府では、秋までに総点検を行うわけですが、

・ミスはあるものだ

・ミスは許されない

と意見には幅があります。

ここで考えたい問いは、ミスから学ぶことができるか、だと思います。というのも、過去はそれが難しかったからです。

私が総務大臣(マイナンバー制度も兼務)補佐官だったときに、マイナンバーカードの交付をめぐるトラブルが多発しました。この時、対応のためのタスクフォースを設置しましたが、縦割り組織で誰も全体像が分からない、行政側に専門人材が少なくベンダーに聞かないと分からない、国と地方の間にも壁があって現場の事務が分からない、という困難な状況でした。

さらに遡ると、2015年に日本年金機構の情報漏洩がありました。原因解明のための調査が行われましたが、同じように縦割りや専門人材の問題が指摘されています。そして、これは当時の判断としては理解できますが、行政には情報漏洩を防ぐ対応力がない、という前提で、年金だけでなく行政システム全体をインターネットから実質的に遮断する、という措置*1がとられました。

2010年代は、インターネット(クラウド)上で様々なサービスが提供され、システムを買うのではなく、サービスを契約するという大きな変化が起こった時代です。これによって、組織や場所を超えてスケジュールや連絡先を管理したり、共同で作業したり、仕事の仕方が大きく変わりました。行政のシステムは、この変化から取り残されることになりました。
今回、ミスに対する対応力はどうでしょうか。

デジタル庁が司令塔となって全体像を把握し、組織には専門人材がいます。開発力や調達力*2は高く、地方のシステムについても責任と権限を持っています。ミスの原因を整理し、着実に対応していくと期待しています。

問い2:緊急度と優先度

別の意見として

・急ぎすぎではないか

・対応が後手に回っている

・そもそもメリットが分からない

などもあります。

確かに、マイナカードの普及や保険証との一体化をゆっくりやればミスも減ると思いますが、それでいいのでしょうか。

また、急いでミスがでることに対して、政権はポリティカルアセットを使うことになるわけですが、なぜそうするのでしょう。

マイナンバー制度の、緊急度と優先度をどう考えたらよいのでしょうか。

日本は、主要国の中で、パンデミックで政府への信頼度が落ちた唯一の国*3です。

国民の期待は、次にパンデミックや大規模災害が起こったときに、コロナ禍のときのような給付金や医療・教育の対応は嫌だ、ということだと思います。マイナカード利用を含めたDXを進めてほしい、という期待があります。

例えば、東京都のDX「シン・トセイ」の情報発信*4への「いいね」は着実に増えていて、国にもこうした変化の見える化をしてほしいのですが、国民の期待が続いていることが分かります。

大臣補佐官をやっていたときに、よく「(ITやデジタルは)票にならないから」と、国や地方で言われましたが、パンデミック以降、大きく変わりました。「喉元すぎれば」はどうしても起こりますが、緊急度と優先度を下げずに、改革を進めていくことを期待しています。

問い3:反対意見からの学び

冒頭に、炎上や政局の為にするメディアや個人とは議論しても仕方ない、と書きましたが

・マイナンバー制度は信用できない

・監視社会になるのではないか

・分断が進むのではないか

・マイナカードを返納したい

という意見や行動について、何か考える必要はないでしょうか。

押さえておきたいのは、日本は政府への信頼やテクノロジーへの期待が、欧米や中国、インドと比べて低い、ということです*5

DXは進めてほしい、でもあまり信頼していない、というなかなか難しい状況です。信頼が低い中で、反対意見について合理性がない、という対応は有効ではありません。

デジタル庁の公式noteより

デジタル庁のミッションが「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」になっている理由の一つはここにあると思います。そして、単なる標語ではなく、ミッションを実行していくために優秀な人材が集まり、デザインシステムなどのしくみが生まれています。あまり知られていませんが、包摂的なデザインの専門家や障害をもったプロダクトマネージャーも活躍しています。

また、もう1点、地方政府への信頼度は高い、ということがあります。

マイナンバー制度の司令塔はデジタル庁ですが、暮らしや仕事で目に見える変化を起こし、個人データの扱いなどについて信頼を得ながらDXを進めていくときに、都道府県や市区町村は大きな役割*6を果たします。

日本で生まれるデジタル基盤は、中央政府まる抱えでもなく、巨大IT企業独占でもない、オープンで包摂性の高いものになると期待しています。

*1:「地方公共団体情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」いわゆる「三層分離」と呼ばれるガイドライン。

*2:調達(契約も含む)は地味ですが重要なノウハウです。マイナンバー制度が開始された当時に、カードの交付やマイナポータルのシステム及び業務の課題は見えていましたが、システムリリース後の改修が、行政では(アジャイル開発が進んでいた)民間と比べて困難でした。予算制度や契約の縛りのためです。

*3:世界11カ国の調査対象国の中で、政府に対する信頼度が低下したのは日本のみ | エデルマン・ジャパン

*4:#シン・トセイ 都政の構造改革推進チーム(東京都 公式)|note

*5:本調査結果によると、日本人の組織や機関に対する信頼度では、政府に対する信頼度は33%と前年度比で3%低下しており、企業(47%)、NGO/NPO(38%)、メディア(34%)と比較すると、政府が最も信頼されていないことが明らかになりました。政府に対する信頼度は2011年の東日本大震災後に急落して最下位となりましたが、その後2014年から昨年までの9年間はメディアかNGO/NPOに対する信頼度が最も低い状況が続いていました。政府が信頼度において最下位となったのは、2013年以来、実に10年ぶりの結果となります。2023 エデルマン・トラストバロメーター | エデルマン・ジャパン

*6:市区町村はデジタル社会の変化を担う大きな役割を果たしますが、膨大なマイナカードの発行や更新業務は集中化や民営化はできないのか、マイナポータルなど表はデジタル化されてもアナログで負担が大きい裏の業務改革を加速できないかなど、検討課題があります。