太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

揺れる個人、許す国家、ゆるい変革 - 経産省「若手PJ」とかつての「プロジェクトK」、「応仁の乱」の歴史観

経済産業省の「若手PJ」について、英語でブログを書いてみた。その前に、英治出版で議論をしていて、そこには壁一面に本棚があるのだけれど、2003年に霞ヶ関の若手官僚が立ち上げた「プロジェクトK」の本*1が偶然目に止まって、一読して、これは相当すごい変革運動だったのだなあ、と思いながら書いていた。

medium.com

目指す姿について、両者は重なりがある。プロジェクトKが提示した国家像の要素は3つ。

・政府の限界と官民の協創国家

・グローバリゼーションの進展と人材を核とした小強国家

・増分主義の終焉と真豊国家

若手PJでは、14年の間に進んだ高齢化が、より色濃く反映されている。ただ、PJでは「天下国家を語る」より「個人に寄り添う」という方針があって、それが共感を呼び、ソーシャルメディアで増幅されてバズったように思う。

変革の方法論については、プロジェクトKは随分と踏み込んでいて具体的だ。総合戦略本部の設置や人事制度の刷新。戦略の不在が国家的な損失を生んでいると断じている。

興味深いのは、今の安倍政権が、経済財政諮問会議や未来投資会議によって、統合的な戦略策定を実現し、また、プロジェクトKが提言した「省益中心主義打破のための、内閣による各省幹部人事の一元化」を内閣人事局で実行していることが、一部で批判を呼んでいることだ。どこかで「仏作って魂入れず」になったのだろうか。今度、朝比奈さん*2の話を聞いてみたい。

 

話は逸れるが、英治出版で議論していたのは、僕が手伝っている「マルチステークホルダーのコミュニティによる地域社会システム変容」を目指すコクリ!プロジェクト*3が島根県海士町で行ったワークショップの今後のことだった。

この10年の間に、システム変容の研究と実践は随分進んでいて、次のような気づきがワークショップから得られている。

・変革チームだけはシステムは変わらず、家族や高齢者や子供など周りが変容する(揺らぐ)ことで、相転移が起きる*4のではないか。

・チェンジは、否定のエネルギーが原動力になることが多いが、相手を許す、対立するシステムの立場に立つことが、共感を伴う大きな変化を呼ぶ*5のではないか。

・変革に用いられる戦略論は、戦争に起源があるマッチョなものだけれど、揺らぎや許しが有効なのであれば、ゆるゆるとやるのもあり*6なのではないか。

そういう話の中で「それって『応仁の乱』*7じゃね」という感想が出てきた。「ズルズル11年」「スター不在」「かえって残念」という自虐的なキーワードにも関わらず売れてしまったこの本は、分かりやすい英雄史観に対して、複雑な社会は複雑に変わるというアンチテーゼを投げかけている。

 

ということを念頭に置きつつ、英語のブログでは、こういったシステム変容の要素を具現化しようとしていると僕が思っている、会津若松市と海士町の例を、デジタルトランスフォーメーションという切り口で書いてみた。

文脈は伝わらないかもしれないけれど、これらの地域イノベーションは、グローバルな目線で動いていて、海外にはシステム変容の実践者やそれに参画している企業や研究機関も数多くある*8から、どこかで繋がるといいなあと、思っている。

*1:『霞ヶ関維新』新しい霞ヶ関を創る若手の会著、英治出版

*2:朝比奈一郎。プロジェクトK代表。元経済産業省。2010年に同省を退職し、青山社中を設立。政策提言に精力的に取り組んでいる。

*3:5月にウェブサイトをリニューアルし、システム変容について、面白い対談が定期的にアップされているので、ぜひご一読ください。

jrc.jalan.net

*4:コクリ!を一緒にやっている組織変容のプロフェッショナルの橋本洋二郎さんによると、大きなシステム変容をシミュレーションするモデルを作ると、周囲の人(bystander)が16%を越えると相転移が起こるとのこと

*5:これも洋二郎さんによると、家族療法・心理療法では「許す」ということが劇的なトランスフォーメーションを起こすことが多い

*6:海士町のワークショップと先日の議論に参加した原田英治さん(英治出版社長)は、これを「あマッチョ」と呼ぼうと提案下が、あまり流行っていない...

*7:

www.sankei.com

*8:Sustainable Food Labなど。http://www.sustainablefoodlab.org こういった海外のシステム変容・オープンイノベーションの事例についても、おいおい取り上げてみたい。