太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

人口8千人の世界トップ10のファンキーな町トットネス、日本の地方もハジけるかも

エダヒロさん*1に呼んでいただいて、英国トットネスの取り組みから考える、という会に参加した。課題だらけの地方経済について、少し視点を変え、工夫をすれば、こんなにワクワクできるとは!

詳しくは、枝廣さんが「地方経済を取り戻す*2」というテーマで、この秋に本を出すということなので、それを楽しみにしつつ、僕が感じたことと、会場に来ていた実に多様な方からいただいた質問をいくつか取り上げたい。

 

トットネスは、Transition Townを最初に宣言した町として知られている。これは、エネルギーを大量に消費する脆弱な社会から、地域の人が協力して、しなやかで持続的な社会を目指そう、という運動。2006年の話だ。その後、この活動は世界中に広がっていく*3

個人的にいいなあ、と思うのは、枝廣さんの話を聞く限り、それが肩肘張ったものではないことだ。人口8千人のこの町は、TIME誌からは「ニューエイジっぽい町の極北」と言われ、英国航空からは「世界のファンキーな町トップ10」に選ばれている。

また、頷いたのは、内発的な経済が大事だという点。これは、今の仕事で地域経済を分析したときの結論だった。枝廣さんは「お金(企業誘致や補助金)を集めようばかりしていて、バケツから漏れていませんか」と言う。それを分かりやすい乗数効果で会場に見せる。

 1万円を消費して、80%が地域に残る場合と、20%が残る場合があったとします。それらが地域内でまた使われて、それぞれ80%と20%残って、さらにまた1巡するとどのくらいの違いが地域経済に生まれるでしょうか。

 計算するとその差は実に7倍になる。短期的に見ると、外から調達する方が安いかもしれない。しかし、このトットネスや「世界一住みたい町」と言われるポートランドなどは、域内にお金が循環することが、例えば、食で言えば地場材料へのこだわり、あるいは金融では地域通貨など、町の魅力となって付加価値につながっている(写真は「コーヒー戦争」と呼ばれるイギリス版スタバに対してローカルコーヒーを飲もう、という呼びかけ)。

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ただしこれは、きちんとした分析が必要で、トットネスではそれをやって「Local Economy Blueprint(地域経済の青写真)」というレポートを作り、何かあればそこに立ち戻る。日本では、岡山大学の中村良平教授が第一人者だ。2015年にこの仕事に就いたときに、最初にお会いした方の一人。地域経済を読み解く分析の入門部分については、中村先生と一緒に全市町村についてオープンデータを作り、解説の動画をアップしている*4ので、ぜひ見てください。

www.stat.go.jp

 

では、会場からいただいた質問から、いくつかを再掲したい。とにかくたくさんの人が話をしてくれて、日本でもいろいろな動きが起こる熱気があった。

Q:失敗するパターンは?

オオタ:リーダー(例:首長)だけ走っている。または、頑張っている人がいるんだけれど、頑張り過ぎていたり、その人が「人柱」のようになっている。

エダヒロ:トットネスでは「良い土を作る」ことを意識して、失敗も肥やしになる。上手くいくときも、そうではないときもあるさ、と思っている。

Q:どこの地域がいいのか?

オオタ:「地方消滅」と言われながら、実は危機感がそれほどないところが多い。ただ、現時点では、100くらい変わる準備が出来ている地域がある。ひとつの例として、7月11日に、IoTを使って変革する地域のネットワーク*5が立ち上がる。

難しいのは、地域の場合、企業と違って、単純に危機感がいいという訳ではない。危機感がそのまま変革のエネルギーにならないこともある。地域は、企業のように入社手続きを経た人たちの集団というわけでないし、また、ずっと一緒にいるので、危機感のようなエネルギーだけではもたない。下手をすると分断が生じる。ファシリテーターのような人が有効。

エダヒロ:柏崎の話をしたい(深いので略します)。 

Q:◯◯をやっているが、小さな町で人がいない。

オオタ:まず3人チームを作りませんか。それぞれ違うセクターの人。一部は外から「シティマネジャー制度」や「地域おこし協力隊」などを活用して引っ張ってくる。

Q:木質バイオマスの日本における可能性について

オオタ:可能性はすごくある。特に小型のもの。ただ、固まった地域が多いので、ゆらゆらしている仲間を作ろう。「スギダラ倶楽部*6」の門を叩いてみてください。

Q:地域経済はマクロな視点だけではなくて、自分視点から見た分析、例えばレストランで食べると地域経済にどう貢献しているかが見えるアプリなんかどうでしょうか?

オオタ:ぜひ作ってください。シビックテックの中から出てくるといいですね。 

Q:地域経済を取り戻す糸口はあっても、教育と医療が課題になる。

オオタ:その通りだと思う。教育と医療がダメだと、その地域に長く住めない。とりあえず、教育についてやりませんか。え、◯◯さんと知り合いなの?今月、飲みにいくんだけど。じゃあ、そういうことで。

Q?:霞ヶ関で頑張っています。

オオタ:うん、頑張ろう!若手官僚のゆるい勉強会*7をやってるから、覗きにきませんか。

Q?:やってることに自信が持てました。

オオタ:いいですね!近くに行ったら、寄らせていただきます。

*1:枝廣淳子さん。複雑なしくみに変化を起こしていくエキスパート。特に持続可能性について深くコミットしている。今年の初めにご連絡をいただき、対談させていただいてご縁ができた。

*2:英語では”REconomy”という造語で英国を中心にネットワーク化が進んでいる。これはトットネスの例。REconomy Project - Transition Town Totnes

*3:日本では2008年に神奈川県藤野から活動が広がっている。トランジション・ジャパン公式ページ | より多くの人とつながるために

*4:ここで取り上げたトットネスなどと比べると、日本で地域経済の分析が出来ている地域は少ない。端的に言えば、産業連関表を持っている自治体は20団体くらいしかなく、一度作っても運用が続かないところも多いと、中村教授から教えていただいた。そこで、入門編としてこれを作った。応用編としては、RESASがよく出来ている。

*5:動きが早い自治体がこの取り組みに参加しています。7月11日がキックオフです。

www.soumu.go.jp

*6:正式名称は「日本全国スギダラケ倶楽部」。リーダーは若杉さんというロックなオヤジ。ダラダラ語る、スギダラの10年とこれから/前編

*7:興味がある方は、個人的に連絡をください。20代後半から30代の官僚の皆さんとやってます。