太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

安全保障と僕らがほんとうに守りたいもの

知ってはいけない 隠された日本支配の構造』という本が売れている。まずは、売れて良かった。というのも、目次*1を見ただけで、知りたい人が読んで「ああ、やっぱりそうなんだ。自分の思った通りだ」となりがちな本だからだ。安保を巡っては、分断が生じており、お互いまともに話ができない状態だが、両側の人が読んだ方がいいと思う。

著者の主張は、

・日本は「普通の国」ではない。

・独裁政権を倒し、安保村に住む既得権益層を退場させよ。

・米国との不平等条約を改正せよ。

というものだ。

これについて是非を議論するのは、僕自身は関心がない。この本には「その後どうなるの」という話がなくて、そこに興味がある。3つ*2考えてみた。

A 日本の防衛力を高めて、自らを守る。

B 中国の傘下に入って、守ってもらう。

C 軍事力には頼らない。

僕の理解では、日米同盟ありきで考え、動く人は、意識的あるいは無意識で、この3つ*3はない、としているのではないかな。両側の人が読んだ方がいいと思うのは、「ありえない」と捨てるものの中に、何かヒントがあると思うからだ。

何を守りたいのか

安全保障とは、国を守ることだけれど、守るものの優先度によって、そのあり方も変わるのではないだろうか。日米同盟によって守るものとしてよく謳われるのは、自由や民主主義や市場経済だ。そのとき、自由や民主主義は輸入ものなので、本当のところ、どれくらい真剣に守りたいのか、僕ら一人一人は問い直すべきではないか。

中国の傘下は、もしかすると経済的には上策*4かもしれない。自由や民主主義が制約されても、暮らし向きが良ければ、文句を言う人は少ないかもしれない。もし、漢字やひらがながなくなるとしたら、どうなのだろうか?天皇家は?

日本の防衛費は約5兆円だけれど、どのくらいあれば、米中の傘に入らなくても十分なのだろうか。その分、何を犠牲にするのだろう。社会保障?輸出型産業が打撃を受けて、経済的にはもっとも厳しい道になるけれど、自然や文化は守ることができるのかもしれない。

軍事力に頼らないという場合は、憲法9条だけ守って、あとは犠牲になってもよし、ということなのだろうか。スイスだって軍隊を持っているけれど。単なる思考停止なのか。あるいは、防衛費の10分の1の外交費を一気に増やして、交渉や対話で国を守れるのだろうか。

 

僕らは「ありえないことはない」世界に生きている。例えば、北朝鮮が米国本土を攻撃する力を持てば、米国にとって、日米同盟は「割に合わない」となるかもしれない。

こういったシナリオは内発的にではなく、外発的に、ある日突然起きるだろう。

その時に備えて、なかなか難しいことだけれど、僕らは「何を守りたいたいのか」を考えておいた方がいいのではないか。また、「外交力やソフトパワー*5を高める」など、できることもあるように思う。

逆に避けたいのは、冒頭にも書いたけれど、分断された片側で「いいね」を繰り返すこと。自戒もこめて。 

 

*1:◆本書のおもな内容◆
第1章 日本の空は、すべて米軍に支配されている
第2章 日本の国土は、すべて米軍の治外法権下にある
第3章 日本に国境はない
第4章 国のトップは「米軍+官僚」である
第5章 国家は密約と裏マニュアルで運営する
第6章 政府は憲法にしばられない
第7章 重要な文書は、最初すべて英語で作成する
第8章 自衛隊は米軍の指揮のもとで戦う
第9章 アメリカは「国」ではなく、「国連」である
追記 なぜ「9条3項・加憲案」はダメなのか

*2:あるいは、著者の指摘する様々な不平等がなくなって、なおかつ米国が日本を守ってくれる、というシナリオがあるのだろうか

*3:少し違う観点として、国民国家以外の力、例えば企業やNGOが国以上の力を持つ、というシナリオもある。これは米国のNIC(国家情報会議)で繰り返し検討されているし、日本政府でも意識している人はいる。

*4:上述のNICの将来シナリオでは、米中協調が、世界経済が最も繁栄する。米国が日本を諦めることが、それを実現するかもしれない。

*5:そういう意味では、和食や日本文化を海外に、それも質の高いものを広げることは、もっと戦略的かつ真剣にやった方がいい。