太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

世界一チャレンジしやすいまちを目指す宮崎とアグリテック

ピーマンを栽培するハウスを見にいったのだけれど、最初に見せてもらったのは圃場横の事務所にあるパソコンの画面だった。温度、湿度、照度、CO2濃度などがリアルタイムでトラッキングされ、そのデータをどう読み解くかを、福山農園の福山望さんが説明してくれる。

”土づくりが大事だ、とか言われてきたんですよね。でも、環境のログをとって、そのデータを分析してきちんと管理すると、新規就農者でも収量があがるんです。”

福山さんは、定期的に技術展示会やベンダーのセミナーに参加している。”僕みたいな(データを読み解く)変人は、たぶん全国に2000人くらいいる”と言う。農業にもIoTはどんどん入ってくる。そのとき肝になるのは、データを読み解ける就農者がどれだけいるか、そしてエンジニアと連携したフィードバックループがどれだけ回転するか、だ。

 

ところは、宮崎県児湯郡新富町。ここにアグリテックを作る構想がある。人口は1万7千人。それを推進する財団*1が5月に立ち上がり、役場から岡本啓二さんが出向して、東奔西走している。

”財団が農業の未来を考える場になってほしい。” 海外からも注目されている「楊貴妃ライチ」を栽培する、森緑園の森さんが岡本さんに熱いまなざしを向ける。

 

新富町の後は、「百年の孤独」で焼酎へのイメージを変えた黒木本店がある児湯郡高鍋町へ向かう。黒木社長は、今年の2月に高鍋町長に選ばれた。最初にお会いしたときも、焼酎に留まらず、農業や教育など幅広いお話をされていたのが印象に残っている。

今回は、具体的なまちづくりの戦略をうかがった。新富町のアグリテックの取組みにも注目されていて、いろいろ議論させていただいた。今後、児湯郡の中で連携し、大きな動きになってくるだろう。

 

”エコシステム*2って、泥臭いものなんです”と、昼間に宮崎市内で、「九州パンケーキ」で知られる村岡社長が、若い起業家向けに話していたことを思い出した。自身が事業で何度も失敗した経験を話し、エコシステムとは、起業家を取り巻く銀行、VC、先輩の事業家が、彼や彼女が失敗から学び、再びチャレンジすることを応援する「文化」が共有されること、だと言う。

それは、ステークスホルダーが連携する絵のような「綺麗事」ではなく、苦い経験の積み重ねが地域で繰り返され、文化になっていくこと。だから”泥臭い”のだろう。

 

新富町のアグリテックに話を戻すと、最初、東京で岡本さんから構想を聞いたときには、これは「妄想」に近いと正直感じた。でも、現地に足を運びたいなと思った。そうして感じたのは、チャレンジする人たちが有機的につながり、経験が文化となっていく中で、それは現実化していくのだろう、ということ。もっと言えば、彼ら彼女らの頭の中では、その未来はかなりクリアーに見えているように思う。

この地を訪れた雑誌「ソトコト」の指出さんは、それを感じて、この写真、寂れた商店街に作った小さなオフィス「ラボ」の前でメンバーが並ぶ姿、を表紙*3に選んだのかもしれない。

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*1:一般財団法人こゆ地域づくり推進機構。ふるさと納税を一部基金化し、民間の人材・ノウハウも活用し、アグリテック構想を推進する。岡本さんのインタビューを見てください。一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 岡本啓司さんインタビュー - YouTube

*2:以前、エコシステムについてまとめた良い記事があるので、取り上げたけれど、関心のある人はぜひ足を運んでほしい。地域における起業のエコシステム、「地方には余白しかない」 - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*3:2017年10月号の表紙((最新号 2017年10月号[特集]地域を育てるソーシャルビジネス | ソトコト