太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

生産性の謎は、AIがコンセントから電気をとるように行き渡ると解消する?

“Productivity Puzzle”とは、先進国において、少なくともリーマンショック以降の7、8年、長く見るとこの30年間、様々な技術進化があったにも関わらず生産性が上がっていないという命題だ。

Bill Janeway氏のエッセー*1によると、電化による生産性向上が行き渡るまで100年かかった。デジタル化は、マイクロプロセッサーが登場してから50年。これから、AIが、コンセントから電力を得るように手軽になって、隅々まで行きわたって生産性を向上させていく、と分析している。

 

要は7、8年のトレンドで騒いだり、分かったようなことを言うな、ということ。

 

ちなみに「AIがコンセント」という比喩は、ケビン・ケリーのもの*2がとても分かりやすい。

いま姿を現しつつあるAIは、どちらかというとアマゾンのウェブサービスのようなもので、安価で信頼性が高く、あらゆるサービスの裏に隠れている実用的でスマートなデジタル機能であり、作動している間はほとんど気づかれることもない。この共有される機能は、必要とされる量に見合ったIQを提供してくれる。電気のようにただつなぐだけで、AIの機能を利用できるようになるのだ。それは電気がこの100年してきたように、不活性な対象物を活性化する。3世代ほど前には、手先の器用な人たちが、あらゆる道具の電動版を作ることで大金を手にしていった。手押しポンプ? 電気を流そう。手絞りの洗濯機? 電動にすればいい。こうした起業家たちは、電気を起こす必要はなかった──送電線経由で電気を買って、いままで手動だったものを自動化しただけだ。現在は、これまで電化されたものをコグニファイする段階だ。IQをいくらか加えることで、ほとんどあらゆるものが新しく、いままでと違った、より興味深いものになるだろう。実際に、これから起業する1万社の事業計画を予想するのは簡単だ。それはただ、XにAI機能を付けるというものだ。オンラインの知能を加えることで良くなるものを、ただ探せばいいのだ

 「X + AI」がこれから広がっていくのを想像すると楽しい。ただし、いくつか大事な問いがある。

 

ひとつは「勝者総取り」の力学が、電化のときと比べて大きく働くこと。データを保有しそれを分析し活用できるのは、ごく限られた企業にとどまっている。Janewayのエッセーで引用されているOECDによる生産性の分析は、トップ5%の企業とそれ以外の企業において、大きな差が生じていることを示している。

また、データや分析能力をクラウドを通じて提供する「プラットフォーム」企業について、どのようなガバナンスが適切か、これから激論になるだろうと、Janeway氏はThe Economist Radio*3で話している。欧州では、このブログでも何度か取り上げたGDPR(一般データ保護規則)が来年5月末に施行され、データについての個人の権利が大幅に強化される見込みだ。日本でも、今月、公正取引委員会が、データ寡占化を牽制する報告書を出している*4

こうした動きについて「余計なことをするな」という声もある。プラットフォーム企業は「AIの民主化」を高らかに宣言*5している。が、前回取り上げたように「それは陰謀だ」という声もある。

 

ただ、今後、流れは「ルール化」に傾くかもしれない。その理由は、このエッセイの最後の方で触れられている分析にある。

データやAIを使うには、十分なネットワーク帯域へのアクセスが必要だ。そして、ある地域でどれくらい帯域が使えるかと、どのくらいの所得が見込めるかが、高い相関になりつつある。エッセイでは、それが理由で、米国FCCは2014年以来、地域別のブロードバンド普及率(まだらで、取り残された地域がある)の公表を止めたのでは、と論じている。

そうした中、国内ではいくつかの自治体がIoT向けのネットワーク整備*6を進めている。これは地域の産業や生活の重要なインフラになっていくだろう。そうした中で、経済と技術と行政のバランスを考えていくことになると思う。

*1:https://medium.com/@bjaneway/which-productivity-puzzle-ffe1d574ae96 “Which Productivity Puzzle” by William H. Janeway

*2:『インターネットの次に来るもの』第2章コグニファイング

*3: https://www.acast.com/theeconomistbabbage/babbage-battle-of-the-maps-1

*4:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170606/k10011008461000.html 公取委 大手IT企業のデータ寡占化に独禁法で対応へ NHKニュース2017年6月6日

*5:グーグルやマイクロソフト等の大手からスタートアップまで、様々な場で発信している

*6:https://japan.cnet.com/article/35098951/ 大規模なものだと福岡市がLPWAネットワークを市全域にめぐらせて、人の動き、畑の環境、子どもや高齢者の見守り等への活用を目指している