太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

僕らは日本の将来の岐路に立っていて、そのことの自覚や議論が難しいことについて

2050年の日本の将来シナリオをグラフィックで示したその動画は、控えめに言っても衝撃的だった。日立京大ラボまで、足を運んで良かった。9月に研究成果の記事*1も出ているけれど、僕なりにここで整理してみたい。

研究チームにとって「意外だった」のは、「都市集中か地方分散か」ということが、人口問題だけでなく、財政、環境、雇用、格差、健康、幸福度が将来どうなるかを決める、もっとも大きな要素であること。
ざっくり言うと、都市集中だと財政と雇用は良くなるが、人口は減り続け、格差は拡大し、健康が悪化し、幸福度が下がる。地方分散には、いくつかシナリオ分岐があって、狭い門を潜れば、全体的に良くなるが、財政が破綻し、雇用が悪化するシナリオもある。さらに、地方分散はモータリゼーションによって環境にはマイナスだ。
どちらがいいかは、議論があるだろう。大事なのは、ふるさとの風景を大事にしたいというような心情論や、グローバル競争では都市に投資すべきという経済論の、噛み合わない対立ではなく、共通の土俵で日本の将来について議論できることだ。

 

もう一つ、大きな成果がある。それは、2050年の都市集中か地方分散というシナリオ分岐が、8年から10年後に起こり、それは不可逆な選択となる、ということ。さらに、都市集中と地方分散のシナリオは、2050年では明確に異なるのだけれど、分岐が起こる時点では社会の姿としては似ていて、将来の選択がなされたということに、僕らは多分気づかないということ。
そのことを、35年のシナリオ変化をグラフィックで示した動画が明確に示している(まだ動画は公開されていないので、グラフを貼っておきます)。

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この重要な研究が出来た背景には、持続可能性の研究者(広井良典教授)とAI技術(日立)の幸福な出会いがある。
これは将来予想ではない。GDP、出生率、失業率、健康寿命など149の指標と、指標間の333の正・負の相関関係をモデル化しているが、その相関が、いつ、どの程度の強さなのかについて、過去のデータ等でも分からないものについては、分からないままモデル化*2している。分からないままモデル化すると、当然シナリオの数が増えるのだけれど(2万通り)、それはAIで分析する。人間の研究者だけではできないことがAIの活用で可能になったのだ。そして、分岐したシナリオからバックキャスティングして、どこでシナリオ分岐が不可逆になるかを分析(上のグラフ)している。

今後、この分析モデルは、公的な機関に公開される。日本全体だけでなく、地方別にシミュレーションも出来るし、基になっているモデルを変えることも可能だ。

*1:「地方分散型」の政策選択を 京大と日立、AI活用し近未来提言 :日本経済新聞

日立と京大が開発のAI、2万の未来シナリオを作り23に分類 - 日経テクノロジーオンライン

日本の二つの分岐点、AI予測 京大と日立が解析 : 京都新聞

*2:広井さん曰く、モデルを作った研究者のバイアスはある、ということだけれど、パラメーターを恣意的に決めず、網羅的にシナリオを作っているので、かなりニュートラルな分析結果が出ていると思う。