多分、2020年ごろまでに、教育はこうなっている。
- 好きなことを好きなように探求するプロジェクト型学習を、年間100時間以上没頭できる。
- 公立で、学校を飛び出して、地域社会に入ってプロジェクトを行える高校が全国に100校以上あって、毎年数千人が「留学」している。
- EdTechの分野でユニコーン企業(評価額1000億円以上の未上場のスタートアップ)が生まれる。
「そんなことはないだろう」って?
確かに、教育システムが変わるのには10年単位の時間がかかる。上記3つが起こっても、教育全体が変わるわけではない。ただ、ちょっとワクワクしませんか?
さらに、ごく近い将来に、こんなことが起こっている。それはいま起こっていることとつながっている(いま実際に起こっていることには、注をつけています)。
景色が変わった!
「未来の仕事」について、若手のクリエイターがつくった映像が1000万回以上視聴され、メディアはもちろん、行政や教育現場で取り上げられる。
映像の素材となったのは、2018年6月に施行された「日本版サンドボックス*1」によって、プロジェクトベースではあるけれど、無人の農耕機が走る畑、無人のコンビニエンスストア、3Dプリンターが建物を立てる建築現場など、2018年に米国で作られた映像(The Future of Work*2)の日本版、それももっとリアルなものが、教育が本当に変わらないと大変なことになる、という空気をつくりだした。景色ががらっと変わった。
振り返ると、2018年には、米国のプロジェクト型学習の現場を描いて話題となったドキュメント映像、Most likely to Succeedの上映会が日本全国で開催*3されており、1000人以上の保護者、教育関係者、子供達が観て、話題となっていた。
立場を越えよう!
プロジェクト型学習が拡大できた理由は、教科の学習において、AIを活用した「習得の状況と必要な振り返りの把握」が進化したこと。結果、EdTechが大きく成長した。そのプロトタイプは、経済産業省が2018年度に実施した実証実験であった。同省の「未来の教室」の報告書*4では、3つの壁の打破を実証の目標として掲げていた。
- 教科(系統)主義と経験主義の壁
- 民間教育と公教育の壁
- 教育と社会の壁
この取り組みは、2017年に経産省に新設された教育サービス産業室の浅野室長による、文科省への「領空侵犯」と言われた。しかし、報告書が出された同じ月に、文部科学省から公表された政策ビジョンに寄せて、初等中等教育局財務課の合田課長は、メールマガジンのコラム*5で、経産省の「未来の教室」事業との連携を積極的に打ち出した。
メールマガジンでは「Society5.0、人工知能(AI)、EdTech…。今回の政策ビジョンにはこれまで文部科学省の学校教育関係の文書にはあまり出てこない単語が数多く盛り込まれています。」という書き出しから始まり、3つの課題を挙げている。
- 個別最適化された学びをいかに公正に提供するか
- 読解力などの基礎的な力を習得させる仕組みをどう構築するか(埼玉県戸田市のデータ、AIを活用した仕組みの例)
- 高校から大学にかけての文理分断の学びをどう脱却するか(生徒の3分の2が理系の長崎県立長崎西高校の例)
2018年時点で文科省が言及するには大胆な例と、合田氏の思いがつまったこのメルマガは、教育関係者の間でちょっとした話題となった。
学生や先生が動き出す!
いやいや、いくら政府が旗を振っても、現場は全くついてきていない。これが、これまでのパターンであったが、2018年には、ちょっとした「異変」が起こっていた。
まず、日本ならではのプロジェクト型学習のフロントランナーである「マイプロ」の全国大会。2017年までは事務局が、プロジェクトをやっている高校に片っ端から声をかけており、運営上も課題が出ていたが、マイプロ本来の精神に戻り、量ではなく質をあげる方向に舵を切った2018年の大会*6には、蓋を開けると3千人近くの高校生が参加した。2020年には目標の1万人を大きく超える参加者となる。
また、同年、ICTやプロジェクト型学習を大胆に取り入れ、公教育と民間教育の壁を公営塾で壊し、社会に開かれた教育を行って「島留学生」が全校生徒の半数近くを占める隠岐島前高校のモデルを、「地域みらい留学」として全国に拡大するイベント*7に、目標の1000組を上回る保護者と中学生が参加した。さらに、学校と地域、学校と学校をつなげる要となる「教育魅力化コーディネーター」の仕事を紹介するイベントが「しごとバー」で開かれた*8が、主催者が驚くほどの参加者が集まった。
コーディネーターのことを記事*9で知ってからわずか3ヶ月で、小学校の教員の仕事を辞め、旅行でも行ったことのない島根に移った石倉さんは、そのときの思いについてこんな話をした。
働く中で、学校という「閉鎖的な教育環境」への疑問や、「こなすことだけの指導」に陥っていることへの課題を感じるようになっていました。
これからは、今まで以上に変化の激しい時代です。それを背負っていくのは私達や子供達です。
でもどうしたらいいのだろう。
島根にはそれを解決するヒントがありました。
「学校を地域に開いていく」
そして、今、私は、毎日が楽しくて楽しくて仕方がありません!
「未来の学び」は意外と早くやってくると思う。
*1:2018年6月6日に政府に総合窓口が設置された。新技術等社会実装推進チーム
*2:後ででてくるMost Likely to SucceedのプロデューサーであるTed Dintersmith氏によるもの。働く人が全く出てこない映像はちょっと衝撃的。
*3:この映像はぜひ観てください。PBL(Project Based Learning)について、一方的な礼賛ではなく、子供、保護者、教師等の視点からリアルに映していると思います。Most Likely to Succeed の作品紹介と自主上映会の様子 — Future Edu Tokyo
*4:丁寧に現場やイノベーターの声を拾っている。「未来の教室」とEdTech研究会の「第1次提言」がまとまりました (METI/経済産業省)
*5:合田課長のコラムは一番下までスクロールしたところ。これはぜひ読んでください。初中教育ニュース(初等中等教育局メールマガジン)第335号(平成30年6月22日):文部科学省
*6:審査員として参加しましたが、参加者のみなさんの熱量に久しぶりにヘトヘトになりました。全国高校生マイプロジェクトアワード | マイプロ
*7:2018年6月に開催された「地域みらい留学フェスタ」イベント情報 地域みらい留学フェスタ2018|地域みらい留学
*9:教育魅力化コーディネーターのパイオニアである大野さん、中村さんについての記事。ぜひ読んでみてください。