太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

『戦略』を見失っていないか?


今週は、BCGのパートナーミーティングでボストンにきています。パートナーミーティングとは、BCGの戦略を決める場でもあり、経営者として取締役会を開く場でもあります。古参の(失礼!)パートナーによると、昔は「日本から来ても肩身が狭かった」とのこと。しかし、今では20名以上のパートナーを擁し、世界に60ヶ所あるオフィスで5指にはいるため、けっこう日本は注目されています。

今年は、セッションの一つに、ハーバード・ビジネススクールのポーター教授による「戦略とは何か?」というものがありました。ご存知、競争戦略論の大御所です。
経営者は、いま、戦略を見失っているのではないか
ポーター教授は、冒頭、このように問いかけます。それに続くスピーチは、物静かな外見とは裏腹に、エネルギッシュでキレのあるものでした。

私の解釈も交えながら、ポーター教授のスピーチのポイントをまとめてみます。すでに、いろんな論文で書いていることがほとんどですが、改めて聞くと、頭が整理されます。

�@「戦略ぽいもの」に惑わされるな
恐らく意識しているのは、まず、80年代を席巻した「ベストプラクティス」。ピータースの『エクセレント・カンパニー』は大ベストセラーでしたね。そして、90年代の『ビジョナリー・カンパニー』。ポーターは、戦略の目的は「ベストになること」ではなく、「ユニークになること」と説きます。何が「ベスト」かは、状況(産業や顧客)によって異なるし、どの企業もベストを目指す、すなわち同じ戦略をとるなんておかしいじゃないか、ということです。さらに、ビジョンも戦略ではない。なぜなら、どのようにそこに到達するかについて、何も示唆がないから。

戦略の本質は「選択」によってユニークさを獲得すること。「ベスト」や「ビジョン」は、「選択」につながらない。そこが危険だ。また、いわゆる「カイゼン」も、選択を伴わない点では、戦略ではない。(もちろん、その有用性を否定しているわけではありません。念のため。)

そして、「株主価値」は戦略の目的ではない、「経済的価値」だ、と続きます。戦略の結果として、ユニークなコスト構造や差別化があり、それが業界平均を上回る利益を生む。そのまた結果が、株主価値だ。明快ですね。

�A戦略の本質は、ユニークさとそのための選択
まず、ユニークなValue Propositionを挙げます。どのようなお客さんに、どのような価値を提供するか、ということですね。そして、それを提供するためのユニークなバリューチェーン。どのように開発し、生産し、営業して届けるのか。例えば、同じパソコンでも、デルとHPでは、バリューチェーンが全く異なりますよね。

これらのユニークさを獲得するには、「選択」が必要。すべてのお客さんのすべてのニーズを満足させることはできないし、すべての価値にあったバリューチェーンなんてない。残すものと捨てるものを決めよ。そういうことです。

さらに、最近の経営者の「改革好き」を意識してか、戦略の「継続性」を強調します。いちど作った価値やバリューチェーンを、やたらめったら変えるのは得策ではない、ということですね。


とても骨太な、堂々とした議論だと思います。ただ、ポーター教授の説く『戦略』は、企業のパフォーマンスを決める要素のひとつに、今日ではなっていると私は考えています。コンサルティングファームのパートナーとして、決して戦略を否定するものではありません。ただ、「人づくり」「リーダーづくり」が、正しい戦略を持つことと同等、あるいは、それ以上に大切になっていると思います。

また、企業の目的は「経済的価値」をひたすら追い求めるものではなくなっています。社会にどれたけインパクトを与え、逆に、社会からどれだけ必要とされるか。この点において、企業のパフォーマンスが大きく変わる時代に入っているのではないでしょうか。

久し振り(?)に、長々と書いてしまいました。まあ、それだけ刺激的なスピーチであったことは、間違いありません。