太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

最近、何をやっているのか(19年5月更新)

いろいろやっており、お会いする方に合わせて説明を変えているのですが、全体像は以下の通りです。プライベートセクター(報酬をいただく)6割、パブリックセクター(公務員相当の報酬または謝金)2割、ソーシャルセクター(プロボノ*1)2割です。(2019年5月時点)

<プライベートセクター>

1. データを活用して未来をつくる

データは21世紀の石油」と言われ、あらゆる産業、そして、日々の仕事・暮らしを駆動すると言われていますが、実際に動いているものはGAFAと言われる巨大IT企業のサービスや、日本ではコマツの建設機械の事業など、まだ限られています。他方、データの独占やソーシャルメディアによる孤独感、AIに対する不安感など、デジタルの負の側面は目に見える形*2になってきています。

株式会社New Storiesでは、ステークホルダーが参加し、共に未来をつくるオープンなプロトタイピングを、クライアントのオープンとクローズドの戦略づくりをしながら、企画・運営しています。

1号プロジェクトとして、パナソニックの未来戦略室と「未来のくらしプロジェクト」を2018年から進めています。ライフデータ、例えば、その日の気分や大切な人の思い出などから、家族や友人との関係性を深める、あるいは、大切なひとを思って祈るなど、暮らしの中のウェルビーイング/幸せにつながるサービスを開発するための方法論やエコシステムの構築を目指しています。実証フィールドは、スマートシティの生きたラボとして注目される会津若松市です。

プロジェクトには、情報技術とウェルビーイングを研究するドミニク・チェンさん、ソーシャルデザインで知られる太刀川英輔さん、Code for Japanのキーマンで会津大学客員准教授の藤井靖史さんがメンターとして参加。パナソニックのデザイナーやエンジニアに加えて、会津若松市役所、地元企業、会津大の学生エンジニア、市民が参加して、未来のくらしを共にプロトタイピングします。

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空間を遮断するのではなく、向こうにいるひとの気持ちを、そっと伝えるドアのプロトタイピング風景

2号プロジェクトは、ベネッセの学校カンパニーと「学びのデータ活用プロジェクト」を2019年から始動。小学校高学年から高校までを対象に、アダプティブラーニング、教員と学習者とのコミュニケーション、進路指導などについて、データを活用したサービスを開発します。実証フィールドは近々発表します。

プロジェクトパートナーは、数学オタクでピアニストで、官僚を経て、現在は地域で様々なイノベーションを手がけるCommunity Future Design代表の澤尚幸さん。ベネッセの事業開発メンバーに加えて、EdTech企業、学校・教育員会、データサイエンス専門家から、大学生や高専生の参加も予定しており、未来の学びを共にプロトタイピングします。

<パブリックセクター>

2. ICTにおいて、日本の質の高いインフラの海外展開を後押し

ICT(情報通信)の官民ファンドである株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構の社外取締役、投資委員会の委員長として、日本企業のICT事業の海外展開を後押しします。

なぜ「官」民ファンドなのか。まずマクロの状況として、新興国のICT投資需要は民間投資だけでは満たすことができない現状があります。大きな理由は、新興国のICT投資には、許認可・手続きについての行政リスクがあり、民間資金はより魅力的な他の領域に流れるからです。

官民ファンドは、G2Gの関係・交渉を通じてこのリスクを下げ、その中で日本のよい技術を後押しすることを目指しています。ファンドの設置期間は2015年から20年間、投資金額は1400億円程度を予定しています。

3. デジタルについて国のアジェンダづくり

毎年6月に、国の成長戦略(未来投資戦略)が閣議決定されます。そこに向けて、与野党や各省庁で様々な検討が行われます。近年、デジタルが大きなテーマになっており、大きな柱は、私が総務大臣補佐官時代に策定に関わったSociety5.0です。

未来投資戦略2019については、未来投資会議のスマート公共サービス官民協議会や規制改革推進会議の投資等ワーキング・グループに参加しています。また、国内外のシンポジウムやセミナーで問題提起や提案もしています。

<ソーシャルセクター>

4. 市民がテクノロジーを使って社会課題を解決する

一般社団法人Code for Japanの理事として、日本においてシビックテックが広がることを後押ししています。シビックテック(Civic Tech)って何でしょうか?

シビックテックとは、市民がテクノロジーを使って社会課題を解決することで、2000年代後半から世界的なうねりとなっています。具体的には、オープンデータを整備して、市民がデータを活用したサービスを開発する。あるいは、行政サービスのデジタル化において、アジャイル開発やデザイン思考を導入していく。こうした活動を支援しています。

テクノロジーについては、大企業による独占への懸念など、テックラッシュ(テクノロジーに対する不安・反発)が言われています。テクノロジーを利用者の手に取り戻すシビックテックの活動に、機会があればぜひ参加してみてください。

5. 社会のうねりをセンシングし、自らの変容を通じてイノベーションを起こす

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コクリ!のワーク。写真の右は、地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事の水谷さん

コクリ!プロジェクトの戦略ディレクターとして、グローバルでもかなりユニークなイノベーションのコミュニティ運営を手伝っています。何がユニークか?

コミュニティーメンバーの圧倒的な多様性。経営者、官僚、研究者、デザイナー、農家、社会起業家など、カテゴリーでは語れない面白い人がいます。「未来を創る100人」のリストを作ったら、多分2、30人はここから入ると思います。

一人一人が本当に素晴らしいのですが、この場で、改めて自分の「根っこ」とつながり、仲間とつながる中で、集合知としての「未来の意図」が見えてきます。それをデザインしていくことで「未来のあたりまえ」例えばモビリティ、暮らし、食などのプロトタイプが生まれてきます。

それをサポートするのがコクリ!のもう一つのユニークな点で、少し専門的になりますが、MITのピーター・センゲなどのシステム思考、西海岸のデザイン思考、心理学療法から発達したプロセスワークなどのフロントランナーが、それぞれ独自に発達してきたアプローチを融合させるという、グローバルでも珍しいプログラムを開発・実践しています。

6. 人口が減少する地域で、教育を起点に地域を変える

一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームの評議員として、地方の公立高校の魅力化を進めています。原点は、島根県隠岐諸島の島前高校。廃校寸前だったのが、いまでは、生徒数の4割ほどが島外から来て3年を過ごします。何が起こったのか?

ポイントは、プロジェクト学習において学校を地域に開き、とても豊かな学びの場が生まれたことです。これは、AIなどによって雇用や必要なスキルが激変する未来において、もっとも必要とされる学びだと思います。プロジェクトを支える高校魅力化コーディネーターが素晴らしい!

離島から島根県全体へ、そして全国へと広がって、今は約50校が「地域みらい留学」というプログラムを持っています。毎年6月に全国で説明会を実施していますので、関心がある方はぜひ足を運んでみてください。

7. 都市への人口集中が進む中、「ブレードランナー的未来」に対しての代替案「風の谷を創る」

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「風の谷を創る」遠野合宿より

上のコクリ!キャンプ建長寺2017で、ヤフーCSO/慶應SFC教授の安宅さんに降りてきた未来の意図が「風の谷を創る」でした。都市への過度な人口の集中と都市と地方の格差拡大は、世界中で進み、止まる気配はありません。それほど遠くない将来、我々は、映画ブレードランナーのような未来を迎えるしかないのでしょうか。 

都市を否定するわけではありませんが、古くは縄文時代から人間が暮らしてきた美しい場所に、これだけテクノロジーが発達したいま、住むことが難しくなっているのはなぜか。問いを再設定し、その観点からテクノロジーを最大限活用すれば、代替案をつくることができるのではないか。

「風の谷を創る」プロジェクトは、2017年12月にキックオフし、18年秋からは安宅ゼミの学生の皆さんも参加し、月1回のペースで研究会を実施しています。19年には小田原市で実証を開始し、法人化の準備も進めています。

*1:私は個人のプロボノ≒ 無報酬ですが、ソーシャルセクターできちんと報酬をもらっている人は増えています

*2:テクノロジーとバックラッシュ(反動・反発)を合わせた造語で、テックラッシュと近年言われ、爆発的にテクノロジーが活用されている中国を除き、世界中でアンケート等で顕在化。残念ながら日本は負の大きさが顕著に大きい。デジタルエコノミーで脱落しつつある日本 - 太田直樹のブログ - 日々是好日