太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

デジタル田園都市の課題とチャンス(前編)

岸田政権の目玉政策として「デジタル田園都市国家構想」が打ち出され、総額5.7兆円の予算が投入されます。昨年11月に設置されたデジタル田園都市国家構想実現会議(以下、デジ田会議)の構成員に任命されたこともあり、いろんなところから連絡をいただきます。

昨年末には官邸で発言の機会をいただき、資料も提出したのですが、なにしろ発言時間は2分だったので、最近考えていることをまとめてみました。

いままでと何が違うのか

デジタル田園都市国家構想とは何でしょうか。内閣官房の事務局が作成した2枚のスライドで見ていきましょう。

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これについて「この政策の課題は何でしょうか」というざっくりした質問をいただくことがあります。皆さんは、この問いにどう答えるでしょうか。とりあえず批判をしておけば、リスクもありませんし、賢そうに見えます。また多くのメディアは、政府を叩いておいた方が受けるので、それがデフォルトになっています。ただ、それではこの国はジリ貧です。

今回のデジタル政策は、2001年のIT基本法施行から20年間にわたって成果をあげれらなかったという課題意識からスタートしています。ですので、いままでと変えているところが重要になると思います。

なお、以下は僕の個人的な見解であり、政府やデジ田会議の検討とは異なることを、予め断っておきます。

まずポイントになるのは「誰一人取り残されず」という部分です。ここは「誰一人取り残さない」という当初の表現から、かなりの議論を経て変更された経緯があります。背景として、今回のデジタル政策については、経済成長や雇用創造だけではうまくいかないという共通の認識があります。この課題意識は、日本だけではなく、グローバルでもTechlush(テクノロジーへの不安や不信)で顕在化している、というのが僕の見解です。ただし、具体的に何が課題でとりうる施策が何なのかについては、見解のばらつきがあります。

次のポイントは「ミニ東京ではない」という部分です。これについては、僕自身も以前から「東京の劣化コピーではダメだ」と、このブログも含めて発信していたので、多少は課題形成に貢献できたのかもしれません。では、デジタルが、地域ならではの価値を創造していくために、どのように活用できるのでしょうか。ここには大きなチャンスがあると考えています。

最後のポイントは、行政関係者以外はピンとこないかもしれません。「国が積極的に共通的基盤の整備を行い」という部分です。これまでは、地方分権において国と地方は対等ということで、地方公共団体のシステムはバラバラでした。そして、それによる非効率は、引越しなどのライフイベントのときに住民が諦めたり我慢することで課題が先送りされてきたわけですが、今回の新型コロナのパンデミックによって、本格的に取り組むことになりました。この基盤には、行政サービスだけでなく、医療・介護や教育も含まれます。

デジタル田園都市の落とし穴

こうした点を踏まえて、この構想は4つの施策に分けられます。成果をあげることができるでしょうか。

落とし穴はいくつかありますが、その裏にはチャンスがあるので、前向きに捉えていきたいところです。施策を詰めるのは、今年の4月ごろまでが期限になるので、政策をよりよいものにする時間はあります。

まず全体的な落とし穴としては、多くの施策では、事業申請の主体が都道府県や市区町村になり、「上から言われて申請するが、(現場は)よく分からない」ということで、外部に丸投げすることです。これは行政に対するイメージの話ではなく、例えば、地方創生の総合計画をみれば、東京のシンクタンクやコンサルティング会社に数十億の発注がなされ、地域は違っても内容は似たりよったりになっている残念な実態があります。

ただ、地方に人材がいない(だから丸投げする)、というのがこれまででしたが、数年前から変化の兆しがあります。

4つの施策別に見ると、一つ目の落とし穴は、利用者やユースケース不在でデジタル基盤が整備されることです。こう書くと、そんな初歩的な落とし穴にはまるのか、と思うかもしれませんが、古くは国が開発を主導した中小企業向けプラットフォームのJ-SaaSから(もっと古い失敗例もありますが)、国のSIPで開発が進んでいるプラットフォームまで、残念なことですが、失敗は枚挙にいとまがありません。

ここについても、ユースケースを先行して仕掛ける変化の兆しがあります。

つぎに、誰一人取り残されないという施策について、高齢者への支援策だけで終わることです。もちろん、高齢者のみなさんもデジタルを通じてサービスを受けることができることは大切なことですし、海外を見れば大きな可能性があります。ただ、この施策には、まだ掘り下げる余地があり、それによって、デジタル実装と呼ばれる施策が大きく進展します。

  • 誰一人取り残さない(当初の表現。上から目線と言われた)
  • 誰一人取り残されない(受け身表現で柔らかくなったが、なんとなく高齢者のみが想定されている)

ここからもう一歩進むと、高齢者だけでなく、障害者や外国人、子供なども参加して、ともに社会をつくっていくという可能性が拓けます。

地味ですが、未来から振り返ると大きなインパクトを出しうるのは、人材育成の施策です。後編では、人材の話とセットで、これらの変化や可能性を具体化するアプローチを提案します。