太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

民主主義はどのように変化しているのか

Brexitとトランプ政権発足があった2016にPodcastで”Talking Politics”の配信を開始して、20年末には2千万人に到達した、ケンブリッジ大学の政治学者のデイビッド・ランシマン教授は、近著”How Democracy Ends”で、「民主主義は”中年の危機”にある」と説いていますが、その背景を語っている動画を紹介します。日本でも市民のデジタル政治参加プラットフォームの実証が始まったことを書きました*1が、2050年には、民主主義のあり方は(多分一通りではない形で)変化していることを予感させます。

動画のポイントを以下にまとめていますが、ぜひ直接ご覧ください。

youtu.be

衆愚政治から議会制民主主義へ

ポイント1:2500年前、ギリシャ時代は民主主義は機能しなかった。それは、みんな貧乏で、教育がなく、若かったから。

ポイント2:18世紀の終わりになって、議会民主主義によってこのセオリーは覆された。選挙で選ばれた人は、貧乏ではなく、教育があり、経験を積んでいた。現在の英国議会の平均年齢は50歳で、50年前も50歳で、100年前も50歳。米国では60歳で、150年前も60歳。

議会制民主主義が始まった頃の潜在的危機は、選挙で選ばれた人と選んだ人のギャップにあった。1930年の米国は、一人あたりGDPや年齢の中央値、教育は、いまのエジプト程度だった。こうしたギャップは、全体主義などの危機の原因となった。

誰も経験したことがない変化

ポイント3:いま起きている変化は、議会ではなく、選ぶ側に起きている。90年前は、米国人口の中央値は25歳だったが、今は40歳になった。欧州は40代半ば、日本は50歳で、議会の年齢に追いついた。1964年は、英国の大学進学率は2%だったが、いまは40%を超えている。このように、選ぶ側が選ばれる側に追いついてきた。

潜在的危機は、選ぶ側の中にある。まず、世代間や教育のギャップだ。また、議会民主主義の前提は崩れている。選ばれる人と選ぶ人のギャップはなくなってきたからだ。なぜ議会に任せなくてはいけないのか。さらに、割りをくっているのは政治的な力がない若者だ。

さらに言えば、100年前、英国で議会政治が定着したときは、選挙権は21歳で、人口の中央値も21歳くらいだった。選ばれた人と選ぶ人の間にギャップはあったけれど、選ぶ側も選ばれる側も、社会の半分を構成している子供達や未来について、明確な意識をもっていた。誰かが、声を出せない(選挙権がない)彼らを代弁しなくてはならないと。

いまは、政治的な力がない若い人に、子供たちや環境や地球について考えさせているが、それは公平ではない。

われわれは、歴史上どの文明も直面しなかった新しい変化の中にいる。

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Photograph: Antonio Olmos/The Observer