太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

高専デザコン 2019 | テクノロジーとあたたかな未来

高等専門学校(高専)のデザインコンペティション(デザコン )の創造デザイン部門の審査員をさせていただいた。機会があれば、一緒にプロジェクトをやってみたいと思っている。

大胆に視点を変える

高専では3つの大会があって、ロボコンがよく知られている。デザコン は新しい大会で、今年は16回目になる。4つの部門があるのだけれど、僕が審査をやった創造デザイン部門は結構ハードだ。というのも、技術をストレートに使って競う、高専生が得意なやり方ではなくて、”地方創生”という複雑な(厄介な)課題を扱うからだ。

正直に言うと、事前の僕の期待値は高くはなかった。なにしろ”地方創生”は、30年前から政府が旗振りをして取り組んでいるが、目覚ましい効果はあがっていない。ちなみに、都市と地方の格差の拡大は世界各地で進行している最も難しい課題の一つだ。

なんだけど、驚いた。完成度が高くて、かつあたたかな未来*1がそこにあった。

最優秀賞は、3人の審査員がすぐ一致した。シャッター街になりつつある米子の商店街を”森に返していく”のだ。

商店街に対しての”大人の”アプローチは、かつての賑わいを取り戻そうとするものだ。しかし、彼らのアプローチは真逆だ。

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米子高専チームのプロジェクト

シャッターの下りた店舗のスペースが”森化”された商店街の姿は、少し幻想的だ。そこに、商店街や近隣の人々が足を運ぶ。空き店舗は市民農園ならぬ市民公園に姿を変えて、よく来る人は自分の区画を持つ。木を育て、時が経つと、その木を使ってカフェができる。世話をしていた町の子供は、家族を持つようになっていて、子供は町の中の森で遊んでいる。高専生は、先輩から後輩へバトンを渡しながら、建築やランドスケープの実習の場として、商店街で活動している。

デザイン思考でいう、視点を変える=リフレーミングが見事で、そこに至るフィールドのインタビューもやっている。そうか、商店街の人との対話から、こういうのが出てくるのか。

他にもリフレーミングがキレキレのプロジェクトがいくつもあって、しかもそれが、高専生の技術により”実装”されるイメージが湧くのがたまらない。

スローイノベーションの担い手

10年間で現金利用率が61%から37%まで下がり、キャッシュレス化の成功事例と言われるイギリスで、17%の成人がキャッシュレス化社会に適応できない、というレポート*2が話題となっている。急激なデジタル化は、取り残される人々をつくってしまう恐れがある。

面白いなあと思ったのは、石川県の中央にある津幡町(人口は約3万7千人)で、貨客混載のサービスによって、町営バス活用や買い物支援や宅配便の再配達問題解消などを仕掛けていくプロジェクト。惜しくも入賞は逃したのだけれど、システム的に考えるアプローチがよいし、じっくりプレゼンを聴いていて個人的に注目したのは、貨客混載のサービスを担う500名の高専生が、町の人との関係性の中から、地域通貨などのテクノロジーを”ゆっくり”広げていく姿だ。

それは、”上から”施策が下ろされるよくあるパターンではなく、町の人にとって身近な高専生が、ついでに荷物を届けるという文脈の中で、対話を通じて、ゆっくりとテクノロジーを広げていき、いつしか町の人の行動や意識が変容していくイメージだ。

そう、関係性がある中で、ゆっくりとイノベーションが広がっていく。この地域社会におけるデジタルの受容性拡大の可能性は、とても素敵だし、ワクワクする。

1%のパワー

毎年、高専に進む中学生は約1万人、同世代の1%だ。全国には高専は56校あって、6万人が学んでいる。

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デザコン2019創造部門の入賞者

地方創生に関わる行政や大学、企業は、ぜひ彼ら彼女らが挑戦する場をつくってみてはいかがだろうか。あまりアドバイス等は行わず、自由にやってもらったらいい。あたたかい未来の兆しが見えてくると思う。

また、大会の運営では、創造部門というチャレンジングな領域について、インパクトのあるプロジェクトを生むための再現性の高い運営の進め方について、ぜひ検討を重ねてほしい。

*1:”あたたかい”と言えば、小川和也さんの『未来のためのあたたかい思考法』はおすすめしたい。

*2:Access to cash reviewというレポート。https://www.accesstocash.org.uk