太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

2050年に46歳+になる高校生に話したこと

高校生の学びの祭典「マイプロアワード」の審査員をやって、とても濃い時間を過ごして、2日後には気仙沼で高校生とのセッションを2時間やらせていただいた。会場にはマイプロの会場であった高校生もちらほら。

僕の中には、高校生に対して「こうすべき」というのは、正直に言うとあんまりない。「年長者は尊敬してもいいけど、言うことは聞かなくていい」と思っている。じゃあ何を話したかというと、こんな内容。

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まず「大きな変化」のイメージを共有。よく使われる写真だけれど。その中で、日本と地方が、変化に際してどう動いたか、という歴史は伝えておきたい。とくに「情報化」の変化には対応できなかったこと。

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次の変化の原動力について。それがどんな形で現れるか。それは予測するのではなくて、つくっていくものだということ。

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最初のワークショップ。2050年までのグランドチャレンジについて。参加者からは、格差、超長寿、AIと人間との協働、人間の価値や主体性など、本質的なテーマが挙がった。

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僕から提示したのは「都市化とそれに対する代替案」、そして「ひまつぶし」。前者については「風の谷」というプロジェクトをしていることを話した。風の谷は100年は続く活動になるので、彼ら彼女らにバトンが渡るといいなあ。

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AIは「人間の仕事を奪う」とか「人間の知性を凌駕する」という意見もちらほら。みんなよく勉強している。そこで「知性ってなんだろう」という話を、安宅さんのブログを引用して話し始める。

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そして、コクリ!プロジェクト*1でこの3年やってきた「身体や無意識の声を聴く」「複雑なものは(因数分解せずに)複雑なまま考える」「手を動かしながら意味をさぐる」などを紹介。限られた時間で、どのくらい共有できるか。

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そこでもうひとつのワークショップで「夢のワーク」を行う。繰り返し見る夢、印象が強い夢を4コマ漫画にする。それを「神の視点」から眺めて「この夢を神さまが見させているとしたら、どんな意図があるのか」を意識する。それを通じて、無意識の声を聴く。

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高校生との対話を通じて考えたこと

僕らの知性はアップデートされるのだろう

「AIは怖いと思っていたけれど、なんだか未来がワクワクしてきた」

こんな感想を数名の高校生からもらった。そう、因数分解ができる課題解決など、狭い意味での知は自動化や最適化がされていくけれど、たぶん、その外に豊かな可能性が、昔の人間が持っていたもの(現代を生きる僕らは無くしたもの)も含めて、広がっているのだろう。

ちょうど、先日お会いした小川和也さんの『未来のためのあたたかい思考法』を読んでいたのだけれど、僕のセッションをもっと豊かにしたような寓話的な33のストーリーがある。彼の想いを受け取る高校生は、たくさんいそうだなと思った。

未来といわれると仰々しく、いまから遠く切り離されたもので、人ごとのように感じてしまう。しかし、未来はいまの積み重ね、現在進行形である。そして、他ならぬあなたのものだ。あなたの思考を未来に近づけ、いまを未来とつなげるために、僕はこの本を書いた。思考を未来に近づけることで、未来への準備が早く進み、未来の可能性が広がる。いや、未来を待たずしていまのあなたがバージョンアップする。(『未来のためのあたたかい思考法』はじめに、より)

大人の都合に高校生を巻き込まないようにしたい

マイプロや気仙沼のセッションで二つ気になったことがある。ひとつは「地方創生」のために勉強したい、何かやりたい、ということ。

「地方創生」について体系だった学問は、僕が5年間調べた範囲では、ごく限られたものしかない*2。いま、地方の大学では「地方創生学部」ブームだ。ひとつひとつを確認はしていないので、あまり乱暴な意見は言えないが、ブームでないことを願う。また、高校生のプロジェクトで「地方の人口減少を食い止める」、そのために「情報発信が大事」という(おそらく大人の事情の)課題設定は、疑問を感じざるを得ない。

もうひとつは、プロジェクトをやれば教科の学習は(あまり)必要でない、という誤解だ。そういう質問を何人かからもらった。教科学習が不要というようなエビデンスはないし、教科学習とプロジェクト型学習は相反するものではない*3。PBL(Project Based Learning)が流行りになっているが、学習者には、それに乗った大人に引きずられないようにしてほしい。

*1:コクリ!プロジェクトについては、説明が難しいのだけれど、とりあえずこの記事をご参照ください。奇跡を起こすレシピ - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*2:国内では、岡山大学を経て産業経済研究所のファカルティになられた中村良平先生。近著に『まちづくり構造改革II - あらたな展開と実践』がある。

*3:教科学習がいらないのが誤解であることは、PBLの試行錯誤で先行している米国のHigh Tech Highについてのこの映像を見てほしい。STEAM / PBL とは - YouTube