太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

学びのデータが動き出す|埼玉県から広がる教育革命

日本の中学生は、中学になると6割が数学に苦手意識をもつ。ちなみに、学力は世界でもトップクラスだ。理由はいくつかありそうだけれど、学力テストにも原因がありそうだ。実はテストについて、埼玉県で静かな革命が起こっている*1

知りたいのは「点数」ではなくて「伸び」

テストで本当に見たいのは「伸びたかどうか」と「その理由」だろう。けれど、いまのテストでは、例えば、前回が65点で、今回が72点の場合、伸びたとはっきりとは言えない。なぜなら、もしかするとテストが簡単になっているかもしれないから。

埼玉県で2015年から導入された学力調査は「項目反応理論(IRT)」というテスト理論が使われている。TOEFLで使われている、と言えば分かりやすいかもしれない。TOEFLは、いつ、どのようなグループで受けても、スコアを比較して伸びを確認できる

また、IRTを使えば、ごく少数しか解けないような難問を出して、点数をばらけさせる必要もない。視力検査のように、自分が分かる状態が安定するところを測定する、というやり方だからだ。

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埼玉県では公立の小学4年生から中学3年生までの約30万人が新しい学力調査を受験していて、学力の経年変化を分析することで、例えば、小学校中学年で数学につまづくとその後に伸ばすのが難しい*2、などが分かってきている。

つまりこれまでほとんど活用されていなかった学力調査のデータに価値が生まれている。データを活用するとなると、テストのIT化(Computer Based Testing: CBT)も進める意義がでてくる。近い未来には、自分のデータを持って、塾で相談するという利用も生まれるだろう。理数嫌いをなくす、という道筋も見えてくるのではないか。

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教育はどうせ変わらない、のだろうか?

IRTという理論は1950年ごろに確立している。海外ではTOEFL以外でも、OECDが実施している学力テスト( PISA)など様々なところで使われているが、なぜ日本の学校では使われていないのだろう。

理由はいくつか考えられる。

  • 全生徒が受験する現行の学力調査が大変で、それを変える余裕がない。
  • 同じく全生徒が受験することで、現行の学力調査に教員や学校が評価される面があり、新テストに警戒している。
  • 新テストの導入が、教育における学力偏重ととられてしまう。
  • IRTは統計学に基づいており、現行テストに比べると分かりにくく、信用できない。
  • 内容に関わらず国が進めることは信用できない。

それぞれ重みのある理由だ。どうせ変わらない、のだろうか?

ただ、この静かな革命に未来を感じるのは、地域の現場から始まり、離れた地域に広がっているからだ。埼玉県戸田市の教育長が深くコミットし、埼玉県県教委に文科省から出向していた若手官僚が汗をかき、福島県や広島県で導入が計画されている。さらに、PISAより優れた点があることから、OECDの教育局長が埼玉県まで視察に来ている。

組織やセクターの壁を超えたうねりになることを期待している。