太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

猛暑のリスクが顕在化する未来

気象庁が記録的な猛暑について「災害と認識」というニュースは海外でも話題になっている。世界のあちこちで猛暑による被害が発生している。様々なソースで猛暑についての研究が紹介されているので、まとめてみた。

猛暑と温暖化ガスの関係は、簡単ではない。ただ、気候変動が、明確な実感をともなう形で表面化したのは確かだ。2015年12月に採択されたパリ協定*1を、自分ゴトとして捉えてみたい。

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猛暑の頻度が劇的に増え、地上に住むことが難しくなる

世界で近年記憶されているのは、2003年の「ヨーロッパ熱波」だろう。暑さが直接の原因で、実に7万人が亡くなった。最近の研究によると、この「1000年に一度」と言われた熱波が、今後は127年に一度と頻度が高まっていく。

産業革命前から今日までに、地球の平均気温は1度上昇している。別の研究によると、欧州で記録的な猛暑に見舞われる人数は、今後の平均気温の上昇が0.5度だと9千万人、それが1度になると1億6千万人になるという。

欧州より湿度が高い地域は、さらに深刻な事態になる。湿球温度(Wet-Bulb Temperatures, WBT:ざっくり言うと、濡れたタオルで覆われた温度計)が35度になると、健康な若者が日陰にいる状態で、6時間で生命の危険に陥る。このまま温暖化ガスの排出が続くと、今世紀の終わりには、中近東はWBTが35度を超えて居住不可になり、南アジアは25年毎に、外出すると命が危機にさらされる環境となる。

簡単に言うと、このままいくと、次やその次の世代では、外出できる地域や時間が大幅に制限されていくことになる。

猛暑で自殺者が増える

人間への間接的な影響では、自殺の増加という深刻なものが、最近発表されたスタンフォード大学とカルフォルニア大学バークレー校の研究*2で指摘されている。

それによると、月平均気温が1度上昇すると、自殺率が米国で0.7%、メキシコで2.1%が増加する。国連のレポートにおける両国の2050年までの気温の上昇から単純に推計すると、米国で9千人、メキシコで4万人ほど、自殺する人数が増える。

以上は相関関係からの分析だが、因果関係はよく分かっていない。仮説としては、高温が精神の幸福感に影響するというものがある。サポートする事実として、月平均気温が1度上昇すると、ツィッター投稿のおける「孤独」「落ち込んだ」など憂うつな言葉が、1.35%増加するらしい。

また、別の研究では、高温により暴力が増加するとしている。

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The Economist: Losing the war against climate change

猛暑に適応するために人類が進化する*3

発汗は人類の進化の重要な要素だ。過去の気候変動によって、人類は暑い中を、食べ物と水を求めて長い移動をすることになり、体毛を捨てて発汗を増やして適応した。結果、霊長類の中で唯一、ほとんど毛がない肌を持つこととなった。

発汗のしくみは、長い時間をかけて変化する。例えば、エスキモーは顔に汗腺が集中し、衣服で覆われていることの多い体には少ない。ただし、先に触れたように発汗はWBTが30度を超えると機能しなくなっていく。限界はWBT35度。

スミソニアン博物館の人類起源プログラムを率いるRick Pottsによれば、人類の進化は「ひとつの環境」に適応するものではなく、差し迫った新たな気候変動に対応するという「多様な選択」仮説を唱えている。

人類はどう進化するのだろうか。ある研究によると、暑い地域では鼻孔が大きくなって、体内の空気循環を強化するらしい。ただ、今般の猛暑化は、人類の進化を上回る速度で進んでいる。

*1:産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑える。目標としては「1.5度未満」を目指す。

*2:MIT Tech Review: 地球温暖化で自殺者が数万人増加か、新研究で判明

*3:Will Climate Change Remake Human Biology? – Future Human – Medium