1月30日に発表されたAmazon、バークシャー・ハサウェイ、JPモルガンが提携し、合わせて約100万人の従業員の医療費削減に向けて、ヘルスケア企業を共同で立ち上げるというニュース*1は、主要なヘルスケア企業の株価を5%ほど下落させる形で波紋を広げた。
The Economist(3rd Feb 2018)にタイムリーな特集*2があったので、考察してみたい。
戦略とユースケース
Alphabet(Googleの親会社)やMicrosoftは、クラウドとAIを武器に病院を顧客にするところから入っていくようだ。場所は、単一システム(NHS)で、開放的なイギリス。
Alphabetは、傘下のDeepMindがマンチェスター付近の4つの病院グループと提携している。AIを使えば、入院患者が死に至る状態にあるのを、従来の方法より2日早く発見できる、と発表している。
Appleは、Amazonの1週間前に、3年の準備を経て、iPhoneで医療データを扱えるようになったと発表した。データを取得するために、米国の病院との連携を進めている。この機能は、次のOSアップデートで実装されるという。
基本戦略は、ハードウェア中心だ。様々なバイタルデータをセンシングするやり方について、特許を積み上げている。病院でしか測定できない医療データはあるが、アップルのデバイスを通じて得られるデータが増えていく。例えば、定期的にあるタスクをスマホで行えば、指の震えをキャッチして、パーキンソン病をかなり早期に発見できるという。
並行して、米国では、FDA(アメリカ食品医薬品局)が認定した医療用アプリが増えている。多くは、ボストンやその近辺のスタートアップが開発している。アプリを使うには、医者の診断が必要だが、糖尿病などの慢性疾患では、従来の治療では改善しなかった患者に効果がでているという。また、米国民が年間140億ドル使っていると言われる発達障害において、自らのコントロールが向上するというアプリも認可待ちだ。
これらは、製薬メーカーにとって脅威となるかもしれない。
今回は違う?
いやいやヘルスケアはそんな簡単にはいかないよ、という声は当然ある。グーグルはヘルスケアデータのプロジェクトを2008年に開始したが、3年で撤退した。それから10年。The Economistの記事は、This time may be differentと論じている。
理由は、スマホの普及、データ分析技術の進化、医療費抑制ニーズの高まりの3つ。当然、個人のプライバシーへの不安や、テック企業の独占への牽制はあるだろう。
Alphabetは、低所得者層を対象にした保険会社と組んで、Citiblock Healthというプログラムによって、ケアを必要としている住民を早期に見出し、手を差し伸べるという事業を進めている。社会的課題も視野に入れて、事業を描いている。
また、出遅れ&周回遅れ?
このような動きの中で、日本はどこにいるのだろうか。ここでは、いくつかの視点を提示し、自分が具体的に関わるケースが出たときに掘り下げてみたい。
まず、身近なところから。iPhoneは日本では将来安くしてほしい。理由は、医療データを扱うことが日本では難しく、iPhoneの価値が下がるから。医療データを共有するには、何らかの認証が必要だけれど、日本ではHPKIという認証システムを、17万人の医師が加入する日本医師会が作ってしまった。。。1400万人が保有するマイナンバーカードのJPKIがiPhoneに載らないのに、HPKIはまず無理でしょう。
AIとクラウドについても課題は大きい。前提となる病院内の電子カルテの普及率は、2016年時点で31.6%。イギリスはほぼ100%、アメリカは70%。EHRと言われる地域情報連携だと、普及の課題はさらに深刻だ。
日本のヘルスケアは、出遅れ&周回遅れの未来しかないのだろうか。でも、ちょっと待ってほしい。日本は世界一の健康長寿の国ではないのか。ここに何かヒントはないのか。
あると思う。例えば、高齢者の生きがいは、ikigaiとして海外でも注目されている。個人が単位のヘルスケアに比べると、日々の暮らしや関係性など概念が広く複雑だけれども、ブルーオーシャンがあるのではないか。ヤフーが先日発表したデータフォレスト事業の中から、何か生まれないか。
後追いもある程度やらなくてはいけないけれども、暮らしやコミュニティ視点の、ちょっとワクワクするような戦略も考えてみたい。