太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

不服従を讃えよう by MITメディアラボ

MITメディアラボが主催する「不服従を讃えよう」というイベントが、7月21日にあった。動画が公開されたので、つらつら見ていた。

冒頭は、アルバート・アインシュタインと、後に非暴力抵抗運動で知られる政治学者のジーン・シャープが20代のときに交わした手紙から始まる。1950年代の「マッカーシズム」と呼ばれる反共主義運動が、科学者やアーティストなどに様々なプレッシャーになっていた頃だ。

社会や組織や政府に対する「果敢な不服従(Defiance)」が、今日の世界を作る大きな力になってきた。それが、個々人犠牲の上に成り立つのではなく、大きな流れになるにはどうしたらいいか。そんな課題提起からイベントは始まる。

www.media.mit.edu

「不服従を讃える賞(Disobedience Award)」には、6週間で7,800を超える候補者が、世界中から集まった。MITメディアラボ所長のJoiこと伊藤穰一さんは、今の政治的環境への課題意識からこのアワードを始めたのか、という問いに「それは違う。この賞の創設は昨年の夏にきまった」と答えているが、反響があったことは認めている。

大賞は、ミシガン州フリント市で水道水が汚染された事案について、粘り強く勇気ある研究発表を通じて運動を起こしたDr. Mona Hanna-AttishaとProfessor Marc Edwardsに贈られた*1。この事案は、地方自治体が衰退したときの事例として記事など読んでいたけれど、このような背景があるとは知らなかった。

政治に対して、科学者が分析に基づいて声をあげる。もちろん、政治にも財政など理由があるのだけれど、議論を重ねていく。ちょうど今日、日本でもある事案が公開で議論されているが、いろいろな「不服従」があるものだ。

 

伊藤穰一さんには、90年代に何度かお話を聞く機会があったが、久しぶりにTEDの映像を見直した。このスピーチのは、3.11の震災の日から始まる。

www.ted.com

 「地図(予定)よりコンパスが大事」「教育より学び」「将来予想より今の行動」など、とても共感する部分が多い。他方、格差とか包摂とかは、伊藤さんはどう考えているのかな、と思う部分もある。

ただ「不服従を讃えよう」というイベントや賞をやる、それだけ「自由」について真っ直ぐな思いがあるのだろう。イベントに使われたアートを見て、それを感じる。僕なんかは、高校生のときにフロムの「自由からの逃走」にはまったこと*2もあり、ちょっと複雑な思いがあるのだけれど。

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*1:Reflections on the nomination and selection process for the MIT Media Lab’s Disobedience Award

*2:猪木武徳の『自由の思想史』あたりを読み返してみたい。