太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

サイバー空間にも国境が必要か?岐路にある僕らができること

今日(2017年7月6日)、デジタルエコノミーにとって、とても大事なニュースがあった。日本とEUの共同声明だ。いや、チーズやワインが安くなるかも、という話じゃない。「個人情報の越境移転の十分性認定」というやつだ。

ここのところ、サイバー空間に国境線がどんどん引かれている。最新の動きは、中国で今年6月に施行された「インターネット安全法」。これは、個人情報のみならず重要なビジネス上のデータ(定義は今のところ不明)を、中国国内に留めておくことを求めるものだ。これをデータ・ローカライゼーションという。

これまでデータの越境移転は、日本企業にとってそれほど大きな経営課題ではなかったかもしれない。しかし、IoTの時代になって、2025年には最大1000億のモノがネットワークにつながり、そのうちスマホがたった80億という時代になったとき、1000億のモノ、例えば自動車、家電、建機、工作機械などからあがってくるデータが国境を越えて動かせない、という事態は企業にとってかなり深刻だ。

具体的な対応については、専門家がいるので、ここでは2点とりあげたい。

1. 全体の鳥瞰図と日本の役割

2. 将来のシナリオを分けるアクション - デジタル・リテラシーを高める

日本は世界のシナリオを変える重要な役割を果たすかもしれない

データ・ローカライゼーションは、中国やロシアだけの専売特許ではない。個人情報保護の先進国である欧州が、ローカライゼーションに邁進している。そして、それを牽制するのが、日本とEU間の越境データ移転の十分性認定だ。

少しマニアックな話になるので、ポイントだけ言うと、2018年の早期に、日EU間で個人情報の越境移転が認められると、まず欧州の保護主義の動きに風穴を開けることになり、日本が属するAPECのルール(CBPRs : Cross Boader Privacy Rules)と欧州のルールが調和する道が開ける、ということ。

これが何故大事かと言うと、もちろん欧州で事業を展開する企業に影響するからなのだけれど、加えて、先日のブログで取り上げた3つのシナリオ:1)デジタルを捨てる、2)技術進化に追いつけない国家に代わる超国家的コミュニティ(例:FB)が現れる、3)テクノロジーを善きことに活用する国際的な調和が生まれる、のシナリオ3の要件のひとつだから。

日本の動きが注目される理由は、本来、データの自由な流通の旗をふるべき米国が、トランプ政権において現在機能停止(主に商務省)しており、かつ機能したとしても、欧州側では個人情報保護という名目で、米国のIT企業の競争力を削ぐ狙いが見え隠れしているからだ。

少しソフトな形の英語の記事はこちら。PDSについても触れている。

medium.com

僕らにできるアクションは、デジタル・リテラシーを高めること

個々の企業戦略はさておき、未来を創るという観点から言えば、デジタル・リテラシーを高めることが決定的に重要だと思う。前述のシナリオ3にもそれが明記されている。

何よりも、データの自由な流通の旗をかかげるべき日本が、国内でデータ活用が進んでいないようでは話にならない。懸念されるのは、日本人は欧米と比較して、データの利用について消極的なこと。それは魅力的なサービスが周りにないのかもしれないが、デジタル・リテラシーに課題があると思う。例えば、札幌市で画像データを活用した実証実験が、一部中止に追い込まれたことは以前書いたけれど、不安に感じる大きな理由はリテラシーだ。

さて、デジタル・リテラシーについては、DQ Instituteというシンガポールの非営利団体が推進しているDQというフレームワークが大変よく出来ている*1

昨年、デジタルハリウッドの佐藤昌宏さんに「DQはすごく大事。日本のプログラミング教育に何が欠けているか分かる」と教えてもらって、総務省内で勉強していたら、ヤフージャパンの安宅さんが「DQスゲー」とFacebookに書いていて、おまけに発案者のYuhyun Parkとやりとりしたら、BCG出身だと分かった。

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ただ、どうやってこういうものを日本で広げていくのか、まだ知恵が足りていない。多分、パワーも足りていない。DQにこだわる必要はないし、ぜひリテラシーを高める活動を広げませんか。

マニアックな補足:データ・ローカライゼーションをめぐる論点

「データが国外(主に米国)にどんどん流出して大丈夫なのか」という議論は、欧州よりはかなり遅れているが、日本でも見かけるようになった。5月に米国ITIFから、とてもよくまとまったレポート*2が出ている。大きな論点は2つある。

まず、海外にデータがあると、セキュリティーやプライバシーが保たれるのか。

次に、データが国内にあった方が、テクノロジー産業が育つのではないか。

ITIFは、

セキュリティーやプライバシーを隠れ蓑に、データ・ローカライゼーションによって、国内産業保護を進める動きが目立つが、前者は都市伝説で、後者はシミュレーションするとマイナス効果になる。

と結論づけている。これは100%そのまま受け取れないかもしれない。例えば、自国のプラットフォーム企業は育たないだろうし、重要なデータについては安全保障上国外に置けないものもあるだろう。日本における議論は、まだ緒に就いたばかりだ。

 

 

*1:DQにはCitienship、Creativity、Entrepeneurshipという3つのレベルがあって、第二段階はプログラミングで第三段階は事業化。リテラシーは第一段階にあって、デジタル社会における権利やアイデンティティ、人間性など大事な8つの要素が入っている。2016年に世界経済フォーラムでも、第一段階の重要性が取り上げられている。8 digital skills we must teach our children | World Economic Forum

*2:主要国の最新の状況もレポートの最後にまとめてあるので、デジタル事業をグローバルに展開している方には役に立つと思います。

itif.org