ある知識人の対談*1で、ソーシャルメディアについて論じている。近年、ソーシャルメディアによって「コミュニケーションの自動機械化」が進んだ。スタンプや「いいね」を使ってコミュニケーションをしている人間にはもはや意識はない。われわれは「大衆はやっぱり駄目だった、というおどろくべき現実に直面している」らしい。
そうだろうなあ、と思うところはある。AIがコミュニケーションに使われると、もっと自動機械化は進む。ただ、この対談が「昔は良かった」という文脈で「俺たちは大衆とは違うぜ。わかる奴だけついて来い」という方向に進んでいったのが、少し残念だ。
先日、いちどじっくり話を聞きたいと思っていた林千晶さん*2を訪ねて、渋谷のFabCafeに行った。3Dプリンターやレーザーカッターが気軽に使えるカフェで、上の階にはラボやコワーキングスペースもある。
後で送ってもらった記事に、最近よく一緒になることが多い野村恭彦さんが、FabCafeでやったシナリオプランニング *3があって、ちょっとすごいなあ、と思った。
シナリオのひとつの作り方として、対立軸を二つ組み合わせるというのがある。これは大変パワフルなやり方*4なので、ぜひ試してみてほしい。FabCafeのセッションで現れた最初の軸は「我々は、コンピューターの最善の判断に、順応するか、反乱するか」ということ。
コミュニケーションだけでなく、キャリア選択や結婚、日々の意思決定などが、これから自動化・最適化されるけれど、それにどう向き合うか。冒頭の知識人の対談など、意見の対立はあるだろう。ただ、この軸だけだと、あんまりワクワクしない。
これにもう一つの軸「我々の価値基準が、(相変わらず)お金に偏るのか、それとも(定義はいろいろあるけれど)幸せに向かうのか」というのを掛け算して、2x2で4つのシナリオを作ると、とても面白い。詳しくは、ぜひ記事を読んでいただきたい。
「順応x幸せ」のシナリオは、ドラえもんかなあ。「反乱xお金」は、マッドマックス。実は最近、Netflixでサイコパスをまとめて観たのだけれど、この未来は「順応xお金」だろう。
シナリオプランニングの大事なことは、シナリオを想定することによって、「いま」の意思決定や行動を変えていけること。技術の社会実装について、「幸せ」について考えることはとても大事だ。さて、どんなアクションが「いま」起こせるだろうか。それは、どんな連鎖反応を生むのだろうか。
今年は、各地域で「官民データ活用推進基本法」*5に基づいて、データやAIを使って、僕らが生活し、働く町の未来をどう描くのかという議論がなされるけれど、日本全国で同じシナリオではなくて、いろいろあっていいんじゃないかな。
*1:https://newspicks.com/news/2200991/body/ 【宮台真司×東浩紀】ソーシャルが私たちから奪ったもの
*2: http://www.loftwork.jp/people/staff/chiaki_hayashi.aspx テクノロジーの話を、やわらかく、元気に話す人なので、会っていて本当に楽しい。
*3: https://www.opencu.com/2016/05/scenario-planning-report/ この記事はおすすめします。野村さんのセッションは、リズム感があって、タッタか進んでいると、違う風景が広がっている。そんな感じです。
*4: 社会変革のシナリオ・プランニング――対立を乗り越え、ともに難題を解決する | アダム カヘン, 小田 理一郎, 東出 顕子 |本 | 通販 | Amazon 南アフリカの民族対立、コロンビアの内戦などのタフな状況で、対話の力と変容型シナリオプランニングで未来をつくったアダム・カヘンによる実践的なテキスト。
*5: 2000年のIT基本法、2014年のサイバーセキュリティ基本法に続いて、2016年にICTによる国の形について定めた法律。デジタルファーストなどが謳われている。