太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

地方創生でほんとうにやらなければいけないこと+大切な追記

1989年(平成元年)に549万人というピークを迎えた高校生の人口は、翌年から減少に転じ、平成の終わり(2018年)には315万人となった。その間に494の公立高校が“廃校”*1になった。

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高校が消滅した自治体の数

時を同じくして、1988年のふるさと創生事業から“地方創生”の取組みが始まった。1990年に公立高校が1つある市町村は1,197あったが、平成の間に、245の市町村で公立高校が消滅した。

高校がなくなるとどうなるのだろうか。

今から何かできることがあるのだろうか。

 平成の一つの総括と言っていいレポートが出た。できるだけたくさんの人に読んでほしいと思って、これを書いている。分析内容について意見があれば、ぜひ教えていただきたい。

prtimes.jp

“廃校”のツケ

地方に行くと、いつも学校のことを聞くようにしている。高校がなくなることの負のインパクトを肌で感じている人は多い。地域のことを深く知る機会がないまま、15歳で外に出てしまう。遠方の大学に入ると家からも出てしまって、地域への誇りがなかなか持てない彼ら彼女らは戻ってくることはない。小学校や中学校でやる地域学には限度がある。そんな話だ。

”でも、高校は県のものだし、仕方がない“と、市町村長や商工会のトップは口にする。文科省の幹部と話すと、“学校の統廃合を特に進めているわけではない”と言う。そうして、毎年、地方で高校が消滅していく。

高校がなくなると、高校生が減る。どれくらい減るのだろうか。レポートによると、高校が存続した場合と無くなった場合では、総人口1万人の町だとして、1クラス分くらいの差がつく。高校がある場合に3学年で7クラスあるとすると、無い場合は6クラス分の高校生が地域外に通学することになる。そんな大きな差ではないかもしれない。

ただ、地域全体で見ると、高校が無くなると転入人口が減少する。地域から出たら戻ってこない、あるいは、教育に不安があるところにはIターンは来ないのだ。高校存続と消滅で比較すると、5年間で1%地域の人口減少が加速する。1万人だと100人が余計に減少する計算だ。これは仕方ないことだろうか。このマイナスを補うような施策がたくさんあればいいのだけれど、現実はそうではない。

“高校魅力化”のそろばん勘定

諦めてしまった地域が多い中で、教育に地域の未来を賭けた町がある。島根県の海士町だ。廃校寸前だったところから、毎年80名ほどが「島留学」で島前高校に入学するようになり、高校が存続しただけでなく、地域の活性化につながった。

国の仕事に関わるようになってから「横展開」という便利だけれど思考が停止する言葉には120%警戒するようになったのだけれど、ここは数少ない例外だ。”島前高校だから“や”海士町だから“という「○○だから」という構造をきちんと分析し、それを乗り越えるモデルを構築し、岩本悠さんを中心に、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームを2016年に設立した。僕は評議員として参加している。現在、26道県59校まで広がり、今年の「地域みらい留学フェスタ」には、2,093名(昨年は1,173名)に参加いただいた。

それでも、壁はいくつもある。そのうちのひとつ経済性について、このレポートは、地域で未来を創る光となるだろう。結論だけ並べると、廃校になることを諦めずに公立高校を魅力化することによる効果は以下になる。

  • 地域の総人口が10年で5%増加(廃校の場合はマイナス2%程度と推定すると差は7%)
  • 1つの高校の魅力化による経済効果は年平均で3,000~4,000万円のプラス

島前高校を含め魅力化の多くのケースでは、市町村が費用を負担する。しかし、”県の持ち物である公立高校になぜ市町の金を使うのか“、また県でも”県外の高校生になぜ県の金を使うのか“という議論が、教育委員会や議会でおこる。それを首長や教育長のトップダウンだけで押し切るのは、なかなか難しい。このレポートが、質の高い長期的な視座にたった議論の材料になることを願っている。

また、”教育は票にならない“と言う首長が多いのも事実だが、このレポートをぜひ手にとっていただきたい。

魅力化は未来につながる

令和に入って、公立高校が1つしかない市町村は約200ある。まだ間に合う。さらに言えば、高校は廃校になったが、隣町の高校を地域を越えて一緒に魅力化している地域もある。

魅力化校では、テクノロジーが発達した未来に必要とされる、探究心や問いを見出す力をつける機会が豊富にあるという意味で、単なる人口減少に対する課題解決にとどまらない、未来につながるとても重要な取組みだ*2

地方の高校の魅力化は、地方創生でほんとうにやらなければいけないことの一つだと思っている。

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大切な追記

隠岐島前高校教育魅力化プロジェクトのコーディネーターとして、魅力化を引っ張ってきたひとりである大野佳祐さんが、Facebookで大切なことを書いていたので、ご本人の許可を得て、<大切な追記>として掲載したい。

長く関わってきた調査が世の中に出て、多くの人に支持されることは本当にうれしいことです。うれしいのですが、実際のところはうれしい気持ちとこわい気持ちと半々です。

僕は、高校魅力化の本質は人口を増やすための政策ではないと考えています。そこにしかない学校や教育内容が魅力的になることで、結果として人口や経済に影響が及ぶわけです。だから絶対に即効性はないし、自分たちで胸を張れる現場ができるまでにすごく長い時間がかかるのだろうと思います。発祥の地と言われる我々だって、まったくもって(おそろしいくらいに)旅の途上です。

でも、ここの発想が逆になっちゃうと、とにかく存続のためにどんな生徒でもいいから来てもらおうと、マーケティングや資金力で勝負する自治体や学校が増えてくることになります。「高校魅力化」という旗を掲げて、大規模な生徒募集イベントに参加すれば、何人かの中学生は興味を持つことになるでしょう。美辞麗句を並べ、うつくしい映像をつくって、たった1回の外国人との交流を「うちはグローバルにも強い!」と言ってしまえば、それに乗せられた中学生や親御さんが入学してくるかもしれません。

その人たちにとってはただの「人口1名増」かもしれないけど、中学生にとっては人生を賭けた(と言ってもいいでしょう)高校選択です。「失敗なんてない、だめならやり直せばいい」というのはたしかにそうかもしれないけど、そういうロクでもないやつらが中学生にそう言うのは、それは絶対に許せない。人生を賭けて地域に来ようとする中学生には、それと同等以上の熱量が地域や学校現場には必要だと、僕自身は自戒します。

視察対応をしていると「どうやったら成功するのかうまい方法を教えてください」という質問があります。そんなんあったらノーベル大野賞だから。それを必死になって、先生方や地域の方々と考えていくプロセスこそが「魅力化」なんだと思います。

なぜか勝手にアツくなりましたが、とくに特定の学校や教育現場を思い浮かべての発言ではありません。あしからずスルーしてください。

中学生の皆さんの進路選択に幸あれ! 

*1:行政や教育委員会では“廃校”という言葉はほとんど使われなくて、“統合”と言われる。

*2:高校の魅力化は、未来の学びを創ることにつながっていく。「未来の学び」は意外と早くやってくると思う理由 - 太田直樹のブログ - 日々是好日