太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

夢のような4日間 | ウェルビーイングを実装して、未来のくらしをつくる

立ち現れる未来

  • 公園の植物が町の人に語りかけてくる。
  • ゴミ捨て場が、町の人のこころをつなぐ。
  • 朝、みんなのこころのスイッチが入るのと同期しながら、自分のこころのスイッチを入れる。
  • 「頑張れ!」と祈る気持ちを、メガホンが離れたところに届ける。
  • 傘を通じて、天気と話をする。
  • ふすまを通じて、ゆるやかに家族と気持ちがつながる。
  • 旅の終わりの寂しい気持ちをセレモニーにする。
  • 交差点にいると、信号機が語りかけてきて小さなサプライズをくれる。

半年間準備してきた会津のハッカソンの最終日、全てのチームが動くプロトタイプ*1を作り上げた。チームの発表を見て、心底驚いた。2030年の暮らしのいくつかのシーンが、目の前に現れた。

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ゆるく気持ちをつなげる“ふすま”をつくる

多くのハッカソンや事業開発は、技術を直線的に伸ばしたものが多い。IoTでこんなことができる、5Gでこうなる、などなど。やりやすいし、なんとなく「未来はそうかな」と思うこともあるけれど、新たな価値が生まれることはあまりない。

また、技術が、特にデジタルが人間を不幸せにし、社会の格差を生んでいるということが、2000年代に入ってから言われ始めた。

そんな中でもテクノロジーを使って躍進する中国や巨大IT企業がある米国と比べて、日本には特に閉塞感*2がある。いろんな場で、経営者の方にデジタルの話をする。多分僕の話が下手なのだろうけれど、前向きな反応はほとんどない。

それでも、最良の方法は「未来を創ること」だろう。そういう単純な想いで、昨年仕掛けた会津ハッカソンの第2回*3だ。ベースとなる未来を創る方程式 = 夢 x 技術 x デザイン*4は変えずに、チームやプロセスはかなり進化した。

ハッカソンの設計をひもとく

柱はウェルビーイング(WB)、ひらたく言うと「幸せ」という願いだ。身近な概念ではあるけれど、2000年以降、アカデミアでの研究が急速に増えた。いまは、社会実装する方法論が確立する前夜だと思っている。3年ほど前のドミニク・チェンさんとの出会いがきっかけになっている。今年は「詩的なエンジニアリング」という独特な世界を持つ、早稲田大学の橋田朋子さんがアイデアソンで協力してくれた。

WBに最高に相性がいいと思っているのが、太刀川英輔さんの唱える「進化思考」だ。これはデザイン思考の一歩先を行く方法論だ。英輔さんは、デザインを「形を通じて関係性をよくすること」と定義をしていて、関係性を大事にするWBとの接続がとてもよい。

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新聞配達の音、味噌汁の匂い、まわりと同期しながら目覚めるということをどう実装するのか

これらを組み合わせるベースが、オットー・シャーマーの「U理論」だ。これは、本当に必要とされていう変化を生み出すための考え方で、過去の成功パターンや現在の常識から性急にアイデアを出すのではなく、いま起こりつつあることを見つめ、対話などを通じて自分や周りの根っことつながり、社会を動かすうねりを感じ、そこからつくりたい未来を生み出す理論だ。

「U理論」を始めとした社会変容の理論を深く研究し、大胆に実践したコクリ!プロジェクトでの経験*5が、このハッカソンの精神的な柱になっている。

そして、会津という場の力が、不思議な化学反応を起こす。日本有数の藩校、日新館を有し戊辰戦争に敗れた会津の地に、1993年にITに特化した会津大学が設立され、イノベーションが起きやすい土壌が生まれた*6。その土地の可能性を信じている会津大学の藤井靖史さんがつくるハッカソンのチームが、なんとも素晴らしい。市役所の職員、地元の花屋さん、会津大学の尖った学生エンジニア、仏具屋さんの若手職人などなど。彼ら彼女らとエンジニアやデザイナーとの間に起こる反応が、予想だにしなかった未来を生み出す。

今年はスポンサーであるパナソニックの他に味の素のデジタル部隊、オイシックスのデザインチームも参加し、より多様なチームとなった。また、昨年は参加者だった地元スタートアップのデザイニウムの前田さん、西会津国際芸術村のディレクターでランドスケープデザイナーの矢部さんがチームのメンタリングをしてくれたのもすごかった。

オープンに考えたい大事な問い

上記のプロセスは、再現性が高まるように少しずつ形式知化を進めていて、近い将来には、社会的な共有の知恵として公開する準備を進めている。

その上で二つの大きな問いがあると思っている。

ひとつは、個人が組織の枠を越えて生み出すイノベーションの事業化プロセスだ。「オープンイノベーション2.0」と呼ぶ人もいて、「リビングラボ」もこの文脈で見直されている。

1.0が単一企業が外から知恵を集めてくる、代表例がP&Gの「Connect and Development」であるのに対して、会津ハッカソンは複数の団体から個人が越境して価値を生み出そうとしている。これはよくある異業種交流団体と異なり、知財や投資やブランディングなど、さまざまな整理が必要だ。

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ゴミの出し方をセンシングして、町の人のこころがつながる。でも、プライバシーは?

もうひとつは、WBの価値、例えば、信号のつぶやきやこころのスイッチなど「心や身体のデータ」のあり方だ。これも単一企業や行政が中央集権的に持つモデルもありうるが、データは市民のものという先進的な約束を有する会津から、新しいモデルを生み出せないかと考えている。その中から、プライバシー保護とデータ活用の新たな関係が見出せるかもしれない。

こうした問いを一緒に考え、次の一歩をつくる人との出会いが楽しみだ。

*1:12月20日に日比谷で一般向け展示を行います。文字ではなかなか伝わらないので、機会があればぜひ体感してください。

*2:ダボス会議で話題になった調査結果。デジタルエコノミーで脱落しつつある日本 - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*3:第1回も相当凄かったし、これをやったから、今につながっていると思う。予想だにしなかった光景を会津で見た - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*4:提唱者は、ヤフーCSOで慶應義塾SFC教授の安宅和人さん。いま一緒に「風の谷を創る」という運動を仕掛けている。

*5:奇跡を起こすレシピを学んだコクリ!プロジェクト。奇跡を起こすレシピ - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*6:いろんな人が読んでくれているのがうれしい。「会津がすごい年表」を作ってみた - 太田直樹のブログ - 日々是好日