経営者の皆さんとデジタル社会・経済について考える機会が続いている。2月の関西財界セミナー*1、3月の気仙沼、4月の北陸経済連合会/北陸総合通信局*2、そして今回の東北経済連合会。
講演を受けたときは、参加者はもちろん、自分にとっても意味のある場にしたいと思って準備を重ねる。今回、事務局と相談して試したのは「sli.do」というウェブの質疑応答ツールだ。最初は「ええ〜」という感じだったけれど、提案に乗っていただきありがたかった。
最初の「AIを活用していますか?」という問いには、260名の名簿上の参加者から、145名に回答いただいた。内訳は「すでに活用している」が26%だった。
風土の面白さ、可能性を伝えたい
前半では、Soceity3.0(工業化社会)で日本はチャンピオンになり、Soceity4.0(情報化社会)で敗退した、という話をする。ただ、危機感を伝えるだけでは、大したことは起こらないと思っていて、後半では、ありたい姿をイメージすることに重点を置いている。いまの日本のリーダーシップの課題だと思うからだ。
まず、地域でテクノロジーを自律的に活用するとどのような未来になるのか、ということで会津若松の話をする。
いわゆる「条件不利地域」で、これだけ面白いことが起こっている。10年単位で、ありたい未来を描けば、大きな変化が起こる。このイメージを、地域のリーダーが共有できないだろうか。
こうした事例について、どうしても構造に目がいってしまう。会津大学や産学官の協議会やICTオフィスなど。ただ、大事なのは構造が機能するための熱量だ。この年表では、競技プログラミングやOpenStreetMapといった活動を示している。
ここまで会津若松についてお話して、「なぜ、どうやって」はあまり大事ではないと申し上げた。リーダーシップは「何を、いつ」が大事だと思うからだ。
「なぜ、どうやって」については、sli.doでアンケートをとって、ひとつお話した。「シビックテック」だ。
2030年までに東北で何が起こっているか
では、「何を、いつ」について、どのように地域の合意ができていくのだろう。南アフリカやコロンビアなどの紛争地域で、対話を通じて未来を創るアダム・カヘンが用いる「変容型シナリオ・プランニング」のやり方の一つに、対立が大きい軸でシナリオを複数つくる、というものがある。
本来は、きちんと時間をとってワークショップをやりたいところだけれど、1時間という限られた枠だったので、予め準備した。軸は「人の流れ」と「未来への投資」だ。右上が「ありたい未来」だとすると、そこから逆算して、何がいつ起こっているのだろうか。
当日、sli.doが機能するか分からなかったので、事前に東北で活躍している友人に聞いてみたのがこれだ。突拍子もないアイデアではないけれど、東北の今とは非連続だと思う。「手なり」ではこうした未来は来ないだろう。ただ、いちど「こうなる」と思えば「兆し」が見えてくる*3。
会場からsli.doを通じていただいた声はこちらだ。
- 外国人がオーダーメードの旅を楽しんでいる。東北の観光資源、先人が守り続け残してくれた文化の豊かさへの気づきと再評価。
- 一次産品の輸出が増加。製造技術のデータ化、鮮度維持の技術アップ、東北ブランドの確立。
- 金融、鉄道、電気、ガス、水道、あらゆるインフラの形が変わる。
- 食料自給率100%の安定した魅力ある街になる。
- 仙台など都市一極化が進み、行政や医療サービスも集中効率化。郊外は自動運転が発展。
- 放射光やILCを核に、東北に強い産業構造ができる。
*1:関西財界セミナーで考えたこと - 太田直樹のブログ - 日々是好日
*2:気仙沼と金沢で、経営者とテクノロジーについて話して考えたこと - 太田直樹のブログ - 日々是好日
*3:理屈っぽく言えば、複雑化する社会・経済では、実在主義(戦略立案者が事象の外にいる)に加えて相対主義(戦略立案者の認識・行動が事象をつくっていく)が大事になる。センスメイキング理論や戦略のストーリー化だ。