太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

関西財界セミナーで考えたこと

京阪神の経営者が一堂に会する「第57回関西セミナー」に問題提起者として参加させていただいた。分科会のテーマは「デジタル社会における価値の変容〜企業は、個人は、どう生きるか?」

事務局が、必ずしも予定調和ではなく、多少かき回してもいいという方針だったので、やりやすかった。ただ、結果として何か生まれるかは、まだ分からない。

問題提起の概要はこんな感じだ。

デジタル社会の本質は「ソフトウェアが世界を飲み込む」こと。コマツの例でいえば、KOMTLUXからLANDLOGまで進化し、今では土木建設工事を「3Dデータの変遷」と定義している。同じようなことが、あらゆる産業で起こる。

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マーク・アンドリーセンの有名なフレーズ

デジタル社会という未来を語る前に、過去を振り返ることが重要。具体的には「日本はITで敗戦した」ということ。日本はICTで生産性が上昇しなかった例外的な国。

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GDPにおける生産性の推移(ICT産業とそのほか産業)

大きな理由は二つある。

一つは、IT人材の所在の偏り。日本では8割近くがITサービス企業に居る。当たり前に思うかもしれないが、欧米では逆。言い方を変えると、日本企業はITを「丸投げ」してきた。

もう一つは、IT人材の給与。日本は米国の半分の水準で、また、ほかの職種と比べて特段に高いというわけではない。IT人材の価値が高く評価されているインドや中国では、「(安くてよく働く)日本のIT人材に下請けに出したい」という話が最近でてきた。

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IT人材の居場所(日本と米国の違い)

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IT人材の給与(絶対値と相対値の国別比較)

Society5.0で言えば、日本は3.0(工業化社会)のチャンピオンだったが、4.0(情報化社会)で波に乗れず、そのことから学ばないまま5.0(スマート社会)を迎えている。

未来はどうなるか。いろいろ見えてきていることはあるが、一つ挙げるとすれば「未来はつくることができる」ということ。経営学に「センス・メイキング理論」という大きな理論があり、不確実性が高く、変化が激しい環境においては、ますます重要になってくる。

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「センスメイキング理論」でよく引用される話

いま、多くの企業で起こっているのは、上の話で言えば、地図をどんどん精緻にして、前に進まず、そのまま遭難してしまうようなこと。

質疑の時間ではいろいろな議論があったが、特に二つのことを申し上げた。

日本のチャンスはどこにあるのか?

デジタル技術について、昨年から不信や不安が顕在化している。2000年以降、技術が進んでも幸せにならないというジレンマがある。そうした中で、技術とウェルビーイングの関係について研究が進んできている。

関西には、京都大学のこころの未来研究センターなど、有望な研究機関があり、また、2025年の大阪万博のテーマはウェルビーイング。ここにチャンスがあるのではないか。

ただし、工業化社会のリーダーは世代交代した方がよい。万博についても、40歳以下に任せる部分をつくってはどうか。

教育の変革をリードする

いま、300年続いた教育システムが大きく変わりつつある。デジタル社会を豊かなものにする人材が生まれるチャンスだ。プログラミングやPBL(Project Based Learning)は、そうした流れの中で捉えた方がいい。

ただし、学校や教師が変わるのには時間がかかる。英語教育の二の舞にしてはいけない。新学習指導要領は「開かれた教育過程」をうたっており、企業が参加する機会はいろいろある。例えば日本版「コンピュータークラブハウス」の支援など。

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今回のテーマは「試される関西〜前進するための条件〜」だった。1970年からの変化でみると、人口は日本全体の17%で横ばいだが、域内総生産は20%から15%台に、製造品出荷額は23%から16%台に、金融貸出金残高は23%から13%という衰退ぶりだ。

世代交代と教育への投資について「関西で面白いことが起こっている」という声が聞こえてくることを願っている。