考えてみれば、パネルディスカッションとして成り立つのかという人選だった。パナソニックの100周年イベントの1セッションをやることになり、声をかけたのは、かなり独自の世界観を持った二人、石川善樹さんと山口揚平さん。
石川さんは「友達が少ない人は早死にする」ということを世に広めた*1予防医学の専門家だけれど、他にもいろんなことをやっている。
山口さんは「今世紀中には、円とかドルはいらなくなる」という*2通貨の専門家で、彼もいろんなことをやっている。
今日のお題は「Society5.0時代に実現する”ゆたかな”くらし」なのだけれど、5.0に行く前にひとつ大事なのは、Soiety4.0で日本は「敗戦」したこと。その理由の一つはビジョンがないことだった。
この二人のアイデアには、時々「?!」とついていけないことがあるけれど、ビジョンがある。しかも机の上のものではなくて、フィールドでいろいろ仕掛けている。話してみて思ったのは、やはり目のつけどころが面白い。ここでは二つとりあげてみたい。
サード・エイジという100年にいちどの新市場
1800年の人類の平均寿命は29歳で、1950年くらいまでは、多くの人にとって「人生=働く」だった。それが1950年以降、寿命がどんどん伸び、社会構造も変わって「人生=学ぶ、働く、休む」という3段階のライフステージができた。特に「働かないひと(若者)」が新しい市場を牽引した。
2000年を超え、人生100年と言われるようになると、25年ずつ4つに区切って考えた方がよいのではないか。中でも3番目の25年間、50歳から75歳の「サード・エイジ」には、まだ暮らし方のモデルがない。ここに100年にいちどの市場が現れる。
石川さんには、それに対する仮説がある。そのプロトタイプが近々公開されるとのこと。キーワードは、「家の中で完結」から「都市に依存」へ。
いちばんお金を払いたいのはピア・エフェクト
20世紀の産業の中心はモノだった。しかし、もうモノでゆたかさは感じられない。また、情報はどうかというと、過剰にあふれているし、ソーシャルメディアにおける承認欲求の過剰消費は、疲れや孤独を生んでいる。
今世紀の価値は「関係」から生まれる。おそらく近い未来に、人々が一番お金を払う対象は、高級車でも別荘でもファーストクラスでもなく、「優れたひとの側にいること(ピアエフェクト)」になるのではないか。平行して、家族やコミュニティという概念も大きく変わるかもしれない。
ここから先は、経営戦略に関心のある方に向けて。
「未来戦略室」という実験
このセッションは、パナソニックの「未来戦略室」によるもの。この謎の組織について、詳細は公開されていないが、経営戦略グループの中で、2030年の長期戦略を、非連続に、未来から逆算して考えるチームだ。メンバーも実に多彩で、エンジニア、商品企画、海外営業や広報、さらには他社からの出向者もいる。30代前半が中心だ。
社内からの風当たりは(多分)きついと思うが、経営企画部長の村瀬さんを始め、幹部の皆さんが、メンバーが思い切ったことをやれる環境をつくっている。
ひとつ期待を言えば、このチームがつくる戦略は、紙ではないように思う。そうではなく、未来をつくっていく社外のエッジ人材とのコミュニティと彼らとの共創によるプロトタイプが「戦略」だ、というくらいやってほしい。
なぜなら、未来は計画するものではなくて、つくるものであること。つくりながら意味が見出されること(センスメイキング理論)。そして、知恵は遠くからくること(弱いつながり/社会ネットワーク理論)。