太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

データの取り扱いと社会への浸透について【ASK ME 1】

<ASK MEについて by 太田直樹>

僕が30を過ぎたころ、当時のBCG代表の内田さんから「会いたい人には必ず会える」と聞き、以来、いろんな人に会ってきました。

気がつけば「会いに来てくれるひと」がポツポツと増え始めました。最近、アドバイスをすることが苦手になってしまい、結構「雑談」という感じです。ただそのことをシェアすることで、何か化学反応が起きないか。そう思いついて実験的にこのコラムを始めました。

<今回のひと>

実験の記念すべき第1回は、神奈川県内の高校に通う学生さんが訪ねてきてくれました。僕が会津でやっているハッカソンに参加したい、といろんな想いを聞かせてくれました。以下は、そのあとにもらった感想です。

 

私は、高校生活を通してMOOC(Massive Open Online Course)を研究していました。その研究のために世界各国の教育、特に尖っているものを調べていくなかで、Most Likely to Succeedを紹介していた太田さんのブログに出会い、お会いするきっかけとなりました。

 

そもそも、私の問題意識の根底にあるのが、「データの取り扱い」、そしてそれがどのような形で社会に浸透していくのか、ということです。MOOCの研究の時にも、教育データの活用に関心がありました。教育と情報が結びつき、加速度的にデータが生成されれば、今よりもっと効率的な教育が展開できることは明白です。一方で、権威主義的な国家が教育データを使って監視教育システムを発達させることもできます。技術は中立ですが、その技術を利用する人の倫理観、文化などの価値観の違いから、それぞれ全くことなる景色が広がると思います。

最近話題になっているGDPRについてもそうです。全体主義の歴史を持つヨーロッパが、個人データを基本的人権として保護する法を制定したことは極めて自然ですし、フロンティアにおける開拓精神が根付いているアメリカが、少し前までデータプライバシーについて寛容な態度を示していたことも当然です。最近話題になっているブロッキングを巡る議論も、ただ単に外国の制度を真似するのではなく、日本の法体系に沿って慎重に検討しているのは、技術を受容する文化の差から生じるものです。

私は以上の考えから、これからの未来は、地域、国、県、さらにはもっと細かい行政の単位で、多彩な情報社会をそれぞれ受容、発達させていくのではないかと考えています。

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ただその段階に至るまでの道のりがとても厳しいということを、太田さんとのお話で感じました。日本で最も改革を進めている自治体ですら、過半数以下の住民しかデジタル行政を利用していないとのことです。また、技術の適応能力が世代間で大きく違うことも、社会的合意形成を得る上で大きな障害となり、それは民主主義を破壊する要因になりかねません。

私は現在、国際色が強い高校に通い、世界情勢への感度が高い友人や教師に囲まれていて、そうでない立場にいる人との関わりがありません。私の不安は、居心地の良い内輪から生まれる美しい未来予想図だけを携えて現実世界を駆け抜けようとしても、いつか深い闇の深淵が目の前に現れるのではないかということです。それを越えるためには、既存のステークホルダーの概念に入っていないレベルまで踏み込み、しっかり巻き込んで粘り強い対話を続けていく他ないように思います。

それを実現するためにも、私には常に「置き去りにされているひとはいないか?」という問と向き合わなければならないし、「だれのために?」という問も自問しなければならないと考えています。

 

非常に悲観的な内容になってしまいましたが、太田さんとのお話はその全てが面白く、僕にとって開眼する内容でした。上に書いた内容では書ききれないぐらいのことを、学ぶことができました。そして何より、時間が経つのがものすごく早かったです。本当に一瞬でした。

今回、貴重なお時間を頂けて感謝の気持ちでいっぱいです。「相談事の見える化」はまだ始まったばかりのようですが、ぜひ他の方との対話もどんどん公開していってもらえばとおもいます。

 

本当にありがとうございました。

 

「置き去りにされているひとはいないか?」という問いがとても心に残っています。(太田直樹)