太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

ずっと幼稚園児でいいのだ|テクノロジーによる暗い未来を変える”1000年間における最も偉大な発明”

AIなどの新しい技術によって雇用が奪われる、文明が危ういとか言われるとき、それを変えうるものが「幼稚園」だと言われたらどうだろうか。昨年話題になったMITメディアラボのミッチ・レズニックのLifelong Kindergartenの邦訳が出た。伊藤穰一さんの日本語版序文は、力が入っている。

私の願いは、この本が「急速に変貌する世界で生き残るためのコンパス」としての役割を果たすことです。もう疑う余地はありません。私たちが、生物として生き残り繁栄していくためには、創造性と多様性を支え、それらの低下を防ぎながら、学びに対する取り組み方を根本的に変えなければならないのです。

なぜ幼稚園が”1000年に一度の大発明”なのか?

世界で最初の幼稚園は、1837年にフリードリッヒ・フレーベルによってドイツで開園された。2000年に、これまでの1000年間になされた発明のうち最も偉大なものは何かを議論する会議に参加したレズニックは、印刷機、蒸気機関、コンピューターなどと主張する人たちの中で「幼稚園」と言い切った。何故か。

・幼稚園は、それ以前の「放送型アプローチ」の教育に対する新たなモデルを提示した出発点である。

・その新たなアプローチは、21世紀の要求に理想的に応えるものであり、しかも5歳の子供たちだけのものではなく、すべての年齢の学習者に意味がある。

フレーベルが作った幼稚園のアプローチは「対話型」であった。子供たちはフレーベルが考案した玩具と対話しながら「再創造(re-creation)」を学んだ。かつそれは「レクリエーション(recreation)」であることに注意が払われ、子供たちは遊び心に溢れ、想像力をかき立てる活動をしていた。

「4つのP」で学びが変わる

レズニックは、幼稚園の学習アプローチから見出した「クリエイティブ・ラーニング・スパイラル」を、MITメディアラボを拠点に実践していく。そこには「まず創ってみる」「創っている中で発見がある」「周りと共有する」「楽しんでやる」などの連鎖で成り立っている。

f:id:kozatori7:20180413113333j:plain

イーストンハウスの子供たちのプロジェクト

そのスパイラルを実践するための方法のひとつが「スクラッチ」というプログラミング言語だ。スクラッチの学びの原則として「4つのP」が提唱されている。

一つ目はProjects。それは、幼稚園で積み木を使って何かを作り始めるように、誰かの思いつきで始まる。二つ目はPassion。誰かに言われてやらされるのではなく、興味のある人が集まってやる。三つ目はPeers。プロジェクトの中でお互いに学んだり、コミュニティで互いの作品を共有して、さらに創造を重ねる。四つ目はPlay。遊びに成功・失敗はない。失敗を恐れずにどんどん新しいことに挑戦していく。

この辺で、僕は「分かったようで、本当に分かっているのかなあ」と感じた。正直に言うと。幼稚園にいい思い出がないというのは別にして、スクラッチのコミュニティでプロジェクトをやった経験があれば、実感が持てたのかもしれない。ちなみに、この本にはいくつかのストーリーが入っていて、よい手がかりを与えてくれる。

プロジェクトを味わってみる

手触り感をもつことにつながった体験を二つ挙げたい。ひとつは、震災後の東北地方で自発的に始まり、2013年から全国大会が開かれるようになった「マイプロ」だ。これはレズニックのアプローチをそのまま取り入れているわけではないけれど「意思」と「行動」を中心に据えている点で、おそらくかなり共通点があり、何よりもそこで現れている学びをただ体験し、「これは何だったんだろう」と4Pを考えてみると、いろいろな気づきがあると思う。

もう一つは、機会は限られるけれど、「レッジョ・エミリア・アプローチ」と言われる幼児教育を実践している場の体験。先日、イートンハウス・インターナショナル・プレスクールを見学させていただき「ああ、プロジェクトって面白いなあ」と感じいった。その時の様子を一緒に見学していた「こたえのない学校」の藤原さとさんが、いきいきと、かつ背景も含めてまとめているので、それをご紹介したい。

kotaenonai.org

さあ、一生「幼稚園児」でいこう。