太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

電子行政で日本がイケていない構造と突破口(後編)

行政のデジタル化のグローバルな潮流をつくったのは、英国のGDS(Government Digital Service)という組織だ。米国のUSDS18Fは、GDSに刺激されて出来たし、最近、日本からたくさんの人が視察に行っている(その成果はいつでるのかな...)。

このWorking at GDSという映像を見ると、いろいろ感じることがある。

デジタルサービスをワイワイガヤガヤ作っている、どうやったらよいユーザー経験が提供できるかを第一に考えている、デザイン思考を日常やっている、などなど。GDSは2011年に設置され、2015年には500人の所帯になっている。

これを念頭に、デジタル化を進める残り3つの要素を見ていく。

3. Set technical standards

標準化について、マッキンゼーのレポートが、ピラミッド組織で官僚的な行政機関で難しい課題としているのがアジャイル開発。これは開発工程を右から左に流していくウォータフォールに対して、ユーザーのニーズに合わせて工程を行ったり来たりするやり方。英GDSや米18Fはアジャイル開発を行政に取り込むことに成功している。ただ、相当失敗して、そこから学んでいるという話を18Fから聞いたことがある。

日本では、現行の調達ルールに厳密に従うとアジャイルはできない*1。2017年1月に、マイナポータルのβ版がリリースされたときに、当時ヤフーから政府CIO補佐として出向していた楠さんとはかなり突っ込んで話したが、例えば、リリース直前までユーザー経験が分からない、というのが現状だ。

日本の地方では、東日本大震災の復興支援時に、浪江町で実施された開発が知られている。この事例については、神戸市役所に勤めながらシビックテックのコミュニティで活躍されている松崎太亮さんが近著「シビックテックイノベーション」で取り上げているが、自治体と地元ベンダー、市民との信頼関係が鍵になっている。

翻って、多くの開発プロジェクトを見ると、外からは「ベンダーロックイン(囲い込み)」と揶揄され、中に入ると必ずしもクライアントとベンダーに信頼がない、という状況が多いのではないか。

4. Facilitate change through legislation

これはデジタルファーストにするならば、時代遅れの法律をきちんと見直しましょうということ。デンマークでは、専門の横断チームがあり、中央省庁、自治体、公的団体からメンバーが参加し、トップダウンで見直しを進めている。

日本にはそのような責任を持つ組織はなく、各省庁が言わばボトムアップで進めている。これが、また時間がかかる。一例を挙げると、法人では社員が「社印」を使って契約などを行うが、デジタルではこれができない。できるようにするには法律改正が必要。ということで「電子委任法」というのを総務省と経産省で作ったが、横でそのプロセスを見ていて、コミュニケーションコストの大きさに考え込んでしまった。

5. Incubate pilot projects and build critical skills

行政サービスのデジタル化で悩ましいのは、やはり人材。民間と比べて、行政の給料が低いのはグローバル共通。GDSや18Fがどうしているかといえば、出入りがしやすく、とびきり魅力的なプロジェクトを作って、人材を集めている。また、シビックテックのコミュニティと関係を築いていることも重要だ。

日本では、2016年に、霞ヶ関のIT人材について審議官までのキャリアが拓けた。「サイバーセキュリティ・情報化審議官」というポストだ。審議官はざっくり言うと、局長の一つ下でかなり偉い。ただ、政府や自治体のIT人材については課題が多く、かつ深い。

地方では、会津若松市や神戸市などは、シビックテックコミュニティといい関係を築いている。その結果、例えば、コーポレートフェローシップ*2という形で、かなりいい人材が役場に入って活躍している。

 

さて、日本版GDSが設置される日は来るのだろうか。避けたいのは、似たような組織の箱だけ作るやり方。お勧めは、「これはいいね」と言われるプロジェクトをやり遂げて、そのチームを母体にすることだ。

例えば、税金の還付申告の自動化。面倒なのでやらない人が多いが、徹底的にユーザーフレンドリーなサービスにする。あるいは、子供や若者のウェルビーイングに関する行政データを、デジタル化し(紙が多い)、NPOも含めて安心・安全に活用できるデータハブをつくる。こうした象徴的なプロジェクトから突破口が開けることを期待したい。

*1:アジャイルをやるなら、例えば、準委託契約の形でやることになるが、通常の調達は、仕様書(これがそもそも日本の場合は曖昧)にもとづいて事業の詳細をすべて記したフルセットで競争入札することになるので、ユーザー経験をよくするために作り込んでいくということはかなり難しい

*2:このプログラムはお勧めします。派遣する企業にとっても、人材育成や事業開発などの魅力があります。

http://www.code4japan.org/fellowship/