太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

僕らは都市と共に滅びていくか、それとも。。。

「スケール」という切り口で、生物から社会、企業の命運を説明する、米サンタフェ研究所のGeoffery Westのチームが発表した理論*1がある。大事なことを先に言うと「(A)都市と地方の格差の拡大は、あらがえない法則に従っている」ということ。もう一つ「(B)ただし、それはどうやら持続可能ではない」こと。

都市はexponentialに拡大していく。人口減少や犯罪増加や格差拡大などの課題と共に。それに対して、exponentialな技術で対応していこうというのがシンギュラリティ派だ。ただ、それって、サイヤ人からスーパーサイヤ人、スーパーサイヤ人2、3、ゴッドとどんどん間隔が短くなって、わけが分からなくなる状況ではないか?ドラゴンボールも終わったけど。。。

「(C)どのようなパラダイムシフトが(都市)社会を持続可能にするのか」というのが、この研究から生まれる問いだ。

(A)都市は効率的で生産性が高いというシンプルで強力な分析

Westを中心とする研究チームは、手に入る限りのデータを世界中から集めて、二つの結論を導き出している。一つは、都市の人口が2倍になった時に、必要な資源は2倍以下だということ。道路の長さ、ガソリンスタンドの数など。どの地域のどの事象を取っても、両対数グラフで傾斜が0.85だ。

もう一つ、都市の人口が2倍になった時に、生み出されるアウトプットは2倍以上だということ。所得、GDP、クリエイティブ人口、特許などなど。犯罪もこの法則に従う。ちなみに、これは両対数グラフで傾斜が1.15だ。

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Geoffrey Westのプレゼンテーションより

この「15%のボーナス」、すなわち「より少ない資源でより多い成果を出す」のが都市化になる。だから、人類社会の未来は都市化にあり、「地球の未来=都市の未来」とWestは言う。

(B)生物は持続可能だけれど、都市はそうではない

この「スケーリング法則」は生物でも成り立つ。生物もスケール(重量)が2倍になった時に、必要な資源は2倍以下だ。両対数グラフで傾斜は0.75になる。都市より効率が良い。

重要なのはもう一つの点で、生物の場合は、都市と異なり、生産活動は両対数グラフで傾斜が1以下(0.75)だということ。数式を言葉に直すと「都市はスケールが増すと活動が早くなる*2が、生物は活動がスローになる」ということ。

ここから一つの予想がなされる。生物は生産性がスケールに対して生産がSub-linearなので、寿命が有限となる。数百万年、生物が持続してきた一つの理由だ。一方で、都市はスケールと生産性の関係がSuper-linearなので、寿命が無限と予想される、ということ。しかし、無限に拡大するということは現実的にはないので、都市文明はどこかで破綻する。

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Geoffrey Westのプレゼンテーションより

(C)パラダイムシフトはどのようなものか?

Westは、成長による破綻を回避するには、絶え間ないイノベーションが必要だとする。しかし、難しいのはイノベーションの期間がどんどん短くなること。スーパサイヤ人ゴッドでダメなら、どうすればいいのか?

SFなら「三次元で解決できなければ四次元」という、映画「インターステラー」のような解決案もあるけれど。。。

ここでは「ExponentialとExodusが再び出会う」という、面白い切り口を提示している松島倫明さんの記事の引用で結びとしたい。

一方に、エクスポネンシャルなテクノロジーによって人類の貧困や環境問題を一気に解決しようとする人々がいて、彼ら彼女らから見ると、人間性回帰を志すシンプルライフの類いは、個人としての救済や倫理的な満足としては結構かもしれないが、より大きなスケールで解決策を模索し社会に大きなインパクトを与えようとしない点で、しょせんは世界の現実から目を背けた世捨て人の生き方だと映る。

一方で『壊れた世界で“グッドライフ”を探して』に描かれているような人々は、経済格差と見知らぬ国の奴隷労働によって成り立つ企業や、環境を破壊し貴重な資源をめぐって戦争を始める政府には加担しないと決めている。そのために自給自足で石油も電気も自動車も使わないような生き方を選ぶ人々から見れば、シンギュラリタリアンのような人は、自分の特権やその生活こそが世界の貧困とか環境破壊の原因になっていることは棚に上げ、自分が1ミリも変わろうとしないまま世界を救うと言っている傲慢なエリート主義者にしか見えない。(中略)

かつて「ふしだら」な結合といわれた両者はいま、修復不可能なほどに分裂し、乖離したかに見える。でも、本当にそうだろうか?

*1:今年5月に出た本『Scale: The Universal Laws of Growth, Innovation, Sustainability, and the Pace of Life in Organisms, Cities, Economies, and Companies』と、手っ取り早く概要を知りたければ、6月にGoogleで行われたプレゼンテーション Geoffrey West: "Scale: The Search for Simplicity and Unity in the Complexity [...] | Talks at Google - YouTubeyやもっと簡潔なものは少し古いがTEDにある。

*2:歩く速度やSNSの頻度などが両対数グラフで傾斜1.15となる。