太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

イノベーションで中国に負ける日、グローカルに本気で賭ける

霞ヶ関で働き始めて、3回目の成長戦略の策定が終わった。1回目はただ眺めているだけ。2回目は、第4次産業革命に大きく舵をきることに多少なりとも貢献できたと思う。3回目はその実行について、いくつかの難所を越える目処がたった。

他方、イノベーションという点では、向こう3年以内に、厳しい現実に直面することを予感している。中国が日本に変わって世界第二位の経済大国になったのは2010年。それから10年以内にイノベーションで、日本は中国の後塵を拝することになるだろう。

今年になって「中国のイノベーションがすごい」という情報が「点から線」になっている。最近、気になったものをいくつか挙げてみる。

中国人の眼に映る今の日本は「20世紀」のままだった…(近藤 大介) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

シリコンバレーのアイデア 即実現する中国の速さ :日本経済新聞

「米国はフィンテックで中国に完敗」 元駐中国アメリカ大使が発言 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

坂村健の目:流れを作る側に立てるか

https://mainichi.jp/articles/20170720/ddm/016/070/005000c 

今週、毎年中国で開催されるサマーダボスに参加したBCG時代の同僚(ドイツ人)と話をしていたら、「中国はヤバい」と言う。「KFCに行ったら、顔の画像を解析して、人種、年齢、性別からメニューを提案してくるんだぜ。これ、いろんな意味でヤバくないか*1。」と、普段は冷静な彼が早口でまくしたてていた。

もうすぐ「線から面」になるだろう。

ダボス会議を主催している世界経済フォーラムは、毎年「世界競争力レポート」を出していて、その中にイノベーションのランキング*2がある。2016-17版で、日本は前年から2つ順位を下げて8位、中国は30位だ。ただ、中国は急激に順位をあげてくるように思う。

 

じゃあ、どうするんだ。

一つのアイデアは、乱暴かもしれないけれど、地方に賭けることではないか。10年前に、ブログでこんなことを書いていた。

これからは「大国発想」ではなく「小さくてもピリリと辛い」小さな国、例えばシンガポール、オランダの取り組みなどから、国、企業、そして個人も発想を得るべきです。
しかしここで気をつけなくてはいけない「ねじれ」があります。
日本は経済大国の地位からゆっくりと滑り落ちていきますが、東京という都市はそうではない。国連の統計によれば2000年の世界第一の都市は東京です。そして、2015年には・・・
依然、東京が世界第一の都市なのです。ちなみに先進国の都市で、2015年のトップ10に入っているのは、東京のほかに第7位のニューヨークです。
おそらく東京で生活していると、なかなか日本の凋落を感じないのではないでしょうか。 (「もはや大国ではない」2008年6月21日のブログより)

 先日、ETICの宮城さん*3と話していて、共感したことがいくつか*4ある。その一つは、「いま、いちばん人が成長するフロンティアは地方だ」ということ。2006、7年あたりからそう思っていたらしい。

宮城さんは、ビットバレーの事務局としてITバブルの前から、その中心にいた人で、その頃までは、東京のITベンチャーがフロンティアだった。それが、バブルがはじけて、暫くたって「地方が面白い」となったらしい。

福岡市なんかは、いいスパイラルに入っている。中国のシェアバイクの最大手、モバイクも日本進出は福岡市からだ。米国のシード投資ファンド「500 Startups」は、日本で最初のプログラムを、今年4月に神戸市で開催*5した。

政令市だけじゃない。日本初のHyperledgerプロジェクトに認定されたブロックチェーン「いろは」の実証は、会津若松市*6で進んでいて、カンボジアの中央銀行が採用に向けてチームを派遣している。宮崎県日南市にはIT企業が集積していて、こんどシリコンバレーからも来るらしい*7

「賭け」なのでポートフォリオがあると思うけれど、僕はこういったグローカルに、暫く時間を使ってみたい。 

*1:ただ、以前取り上げたように、中国のデジタル経済は事実上鎖国状態。このことは、今後、様々な影を中国内外に投げかけるはずだ。  サイバー空間にも国境が必要か?岐路にある僕らができること - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*2:このレポートの50ページ。

http://www3.weforum.org/docs/GCR2016-2017/05FullReport/TheGlobalCompetitivenessReport2016-2017_FINAL.pdf

*3:来年でETICは25年になる。日本のソーシャルリーダーの歴史は宮城さん抜きには語れない。宮城治男氏 NPO法人ETIC. 代表理事|「社会リーダー」の創造

*4:他には「価値(観)の軸が変わる」ということ。利便性や機能性という従来の軸では、米国や中国のイノベーションとは競争できないと思う。

*5:福岡市ほど明確な形ではないが、神戸市にも人材が集積しつつあるように思う。500 Startupsと神戸市が起業家支援に本腰--プレゼンスキルも伝授 - CNET Japan

*6:先日、会津大学の藤井准教授に会っていろいろ話を聞いた。すごく面白いことが進行しているので、こんど書いてみたい。会津大学が国内初!学内仮想通貨「白虎」5月導入目標へ|萌貨(モエ)に続く地域通貨へ第二弾 | 仮想通貨まとめ

*7:日南市では、リクルートから市のマーケティング専門官として、市長の右腕に転身した、”たじー”こと田鹿さんが活躍している。