太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

エンジニアが「やれやれ」と言いながら、国の仕事をしているということ

先日、ある方と話をしていて「官僚は自分たちが使っているお金にもっと自覚をもった方がいい」と言われた。無駄遣いを止めろという一般論ではなく、例えば、行政がITに使っているのは、政府が5,000億円*1、地方が4,000億円だ。合わせて9,000億円。民間トップの三菱UFJの3倍、トヨタの4倍だ。この予算を戦略的に使えば、できることはいろいろあるはずだと。

来週、7月18日から、僕らの個人情報、税やら年金やら住所やらが組織を超えて流通する「情報連携」が動きだす。そして、その窓口となる「マイナポータル」が次のステージに入る。これらが軌道にのると、行政手続きで添付書類が不要になって、いわゆるTell Us Onceが実現し、また、子育て関連では、保育所の申し込みなどがスマホでできるようになる。

舞台裏では、本当にいろいろあったし、今もいろいろ起こっているし、これからもいろいろあるだろう。政府ではIT人材のキャリアパスができておらず*2、民間からエース人材に来てもらっている。

その中の一人に、ヤフーの楠正憲さんがいる。内閣官房でCIO補佐官としてマイナンバー関連のシステム開発の現場に入っていただいている。楠さんの名前は、この仕事に就いてから知っていたけれど、ぜひ会って話をしたいと思ったのは、マイナポータルのβ版が、今年1月の登録開始早々炎上した時。「なんで、こんな15年前のシステムになったのか」とエンジニアの方々から厳しい意見をもらった。

楠さんとはFacebookがつながっていて、タイムラインを見ると、連日、深夜までエンジニアのコミュニティに向けて説明し、激論している。夜中に読んでいて、いろいろ思って泣けてきた。早速会って、話を聞き、対策を聞き、実行した。以来、たまに飲んでいる。

楠さんの過去のインタビュー記事*3に、こんな言葉がある。

古川(注:マイクロソフト日本法人の初代社長)の言葉で、楠がよく覚えているのが「上を見るな、天を見よ」だ。楠は内心で「天ばかり見ているとドブに落ちるぞ」などと思ったこともあるものの、やがて「組織に振り回されるのではなく、根源的な顧客ニーズや社会の課題を認識して、個別の事情や損得では揺るがない世界観を持つことが、目先にとらわれない判断には必要なのだ」と思うようになった。

この一節を思い出したのは、米国の18Fという、政府のデジタル化を仕切る専門組織が、トランプ政権下で揺れているからだ。

18Fは、2014年に出来た組織で、調達システムなど旧態依然としている政府情報システムを、デザイン思考やアジャイルなどの手法を駆使して、大きく変えている。英国ではGDS(Government Digital Service)という同様の組織が2011年に設置されていて、近年の英国の電子行政で成果をあげている。

Mediumで目にとまったブログで、18Fのある職員が、残るか辞めるか考えた挙句、辞めることになった理由として、こう書いている。

Pledging our faith, allegiance, our loyalty not to a person, but to the Constitution and to the people as a whole is absolutely fundamental to our form of government. 

 ここでいう”Person”は、”あの人”だ。背景として、FDI長官の解任の経緯や18Fの組織改造などがあるようだ。当然、この記事には共感、違和感、いろいろ寄せられている。

こういった志や動機は、何もエンジニアに特有のものではないかもしれないけれど、彼ら彼女らが力を発揮できる場があるかどうかで、社会や地域は大きく変わるんじゃないか。どうしたら「座右の銘は”面従腹背”」なんて言うのではなくて、建設的な議論や深い対話によって、いい仕事ができるスペースを広げられるのか。

そんなことを考えながら、今から4時間かけて、奥会津のエンジニアの集まりにこれからでかける。

*1:政府のIT予算については、このITダッシュボードが出来てから随分変わった。

www.itdashboard.go.jp

*2:2016年4月に「サイバーセキュリティ・情報化審議官」というポストが各府省に新設された。審議官は、局長と課長の間。政府におけるIT人材が幹部になる道がようやく拓けたところ。ただ、まだまだこれから

*3:楠さんもトライセクターリーダーの1人だと思う。とても熱い人です。

doda.jp