太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

「なぜ働くのか」という問いは大事だけれど(前編)

「仕方なく」あるいは「いやいや」働いているひとが、とにかく多い*1。さらに、そのことに無自覚である*2こともある。これは世界的な現象だけれど、特に日本がひどいときている。

そこで「パーパス(目的)」だ。マーク・ザッカーバーグが母校、ハーバード大でのスピーチで、こう言っている。

 今日は「目的」について話をさせてください。でも「あなたの目的を見つけよう」といった月並みなことを言うために、ここにいるのではありません。僕らはミレニアム世代です。そんなことは本能的にやっているはずです。そうではなくて、僕は「目的を見つけるだけでは十分ではない」ことを、皆さんに伝えるためにここにいます。僕らの世代の挑戦は、誰もが目的意識を持っている世界を創造することです。
 僕の好きな話の一つに、ジョン・F・ケネディが、NASAの宇宙センターを訪問したときのものがあります。箒を持っている清掃員を見て、彼は歩み寄り、何をしているのかと尋ねました。清掃員は「大統領、私は人を月に送るのを手伝っているのです」と答えました。
 「目的」は、僕らが自分よりも大きなものの一部であり、必要とされていて、仕事をする向こうに、何かより良いものがあるという感覚です。「目的」こそが本当の幸福感をつくるのです。

 NPO法人クロスフィールズ*3の小沼さんは、このことを手触り感のある形で話している。大企業にいるほど「社会との表面積」が小さくなって、目的を感じにくくなっていると。小沼さんが取り組んでいるのは、そんな個人を組織から引っこ抜いて、社会に放り込む「留職」という事業だ。

newspicks.com

経済産業省に「産業人材政策室」という部署がある。国レベルでの人材育成政策の、実質的に司令塔になっているところだ。室長の伊藤参事官を勉強会に招いて、議論したのだけれど、「エンゲージメント(仕事/会社と自分の間の主体的な関わり)」がこの先の課題として見えてきた。

背景として、この先、こういう動きになっていく。

・問題意識:価値の源泉は、産業・企業から人材へ*4

・政策:働き方改革は「第2章」へ。1)成果、生産性に基づく評価へ、2)時間、場所、契約に縛られない、柔軟な働き方の実現、3)キャリアへのオーナーシップと生涯にわたるスキルのアップデート

この3つの柱を実行していくには、国、企業、個人で大きな変革を伴うけれど、他方で、これらだけで走ると、会社・仕事と個人の関係が損なわれるシナリオもありうる、そういう議論だった。例えば、「クラウドソーシングは、個人の搾取になりうる」といったことだ。

だから「パーパス」や「エンゲージメント」というのは、これからとても大事になってくる。ただ、こういう問いが浮かんでくる。

「誰もが目的意識を持っている社会」って、一体どんなものなのだろうか。

 

*1:「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査 :日本経済新聞 まあ、海外との単純な比較に異論もあるかもしれないけれど、課題であることは確かでしょう。

*2:10年前に書いたブログで、いろいろ考えていることもあるのだけれど、とりあえずリンクを。目の前の仕事に追われて消耗する日々を変える - 太田直樹のブログ - 日々是好日

*3:ちなみに、小沼さんと一緒に事業を立ち上げた松島由佳さんは、BCGの同僚です(ちょっと自慢)。マッキンゼー男とボスコン女、NPOを創る | 人物 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

*4:経済産業省が、こう言い切るとところが凄いと、個人的に思ったけれど、世間では「当たり前やん」ということかもしれない。ただ、産業人材政策室は「室」であるにもかかわらず「課」よりも大きい所帯となっており、経産省のエースの1人である伊藤さんがリーダーであることに、同省の本気度がわかる