読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日々是好日

テクノロジーが社会を変える

デジタル革命に「べき乗則」は働くか?

「皆さんは、金子勇*1のことを忘れたんですか。日本は変わっていないじゃないですか。僕はビクビクしながら事業をやってますよ。」

総務省の有識者会議で、メディアでは強気の発言で知られるスタートアップの経営者が、強い語気でこう言った。2015年の秋。IoT・AI・ビッグデータについての政策検討が始まったころ。「もっと前向きに考えないと」と別の有識者。暫く激しい議論が続いた。

「もういい。課題はある。俺もよく分かっている*2。このことにきちんと向き合って検討を進めよう。」座長の村井(純)さんが議論を引き取った。

 

前回紹介した坂村(健)さんの本は「今からもう20年以上前ー私がデザインし創っていたTRONというコンピュータの基本ソフトが米USTRにより不公正貿易取引の対象として取り上げられたというニュースが聞こえてきた。」という文で始まる。

今の仕事で、インターネットとIoTの泰斗が「技術と社会」という問題に真剣に向き合う姿を間近に見ている。そして、お二人の目指す方向は一致している。

 

「やってみる。場所は選ばない。そして、うまくいくまでやる。」ということ。

頭のいい人は「どこか梃子(レバレッジ)の効くところはないか」「どうやってスケールアウトするか」を考えるだろう。しかし、そうではないと思う。何故か?

理屈っぽく言えば、僕は、デジタル革命にも「べき乗則」が働くのではないかと考えているからだ。

 

べき乗則で有名なものは、地震だ。地震の大きさが2倍になると、発生頻度は4分の1になる。そして、べき乗則は予測できない。

イギリスの物理学者が82の戦争について調べたところ、死者の数が2倍になると頻度が4分の1になっていることがわかった。つまり戦争を始める際に、それがどの程度の規模になるかはまったく読めないということだ*3。(だから、戦争は地震と同じく、コントロールできない...)

レバレッジやスケールアウトを「予め」計画できるのは「正規分布」の考えだが、社会で正規分布はむしろ特殊ではないか。

 

デジタル革命に「べき乗則」が働くとすれば、何が大事か。物理学では「臨界状態」にあることだと言う。社会で言えば、どうなるのか。参加する人が増え、自由に動けることだろう。そこで、IoT政策に話を戻すと、「人材育成」と「規制改革」が柱となっている。

これは、冒頭のある起業家の発言ではないが、きれいにトップダウンでできるものではない。それはよく分かった。

さらに言えば、この「自由に動ける」というのが、簡単なようで奥が深い。最近、世界を代表する物理学者の大栗さんと仏教学者の佐々木さんの対談*4を読んでいて、そう思った。また脱線してしまったが、これもどこかで取り上げたい。

 

 

*1:当時世界を驚かせたP2PのソフトWinnyを開発した天才プログラマー。しかし、Winnyは社会的な問題となった。金子さんは、2013年7月に急逝。享年42歳。

*2:http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130707/489582/?rt=nocnt 村井さんの金子さんへの追悼の言葉。

*3: 詳しくは『歴史は「べき乗則」で動く』マーク・ブキャナン、早川書房、2009年。ちなみに所得もべき乗則が働いている。つまり、どの人がどれくらい稼ぐかは予測できないということ。それでも努力や鍛錬は必要だと思う反面、「こうすれば成功する」という話には個人的には全く興味はない。

*4:『真理の探究 仏教と宇宙物理の対話』佐々木閑 大栗博司、幻冬社、2016年