太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

先進国10億人の市場の秩序を、新興国10億人が塗り替える日!?

BCGのハイテクグループの社内会議でシンガポールに来ています。シンガポール出張は夜行便が飛んでいるので、ほとんど時間のロスがないのが便利な点です。加えて、最近は、ホテルの部屋はもちろん、会議中もブラックベリーと携帯でネットワークにつながっており、日本での仕事をそのまま持ってきて、かつ現地で会議をこなすという状況で、海外出張が入ると結構気が滅入ります。

とは言え、はるばる来ただけの刺激はあります。今回は、しばらく注目してきたNext Billionというコンセプトがようやく具体的な形として見えてきました。

Next Billionは、BRICsを中心とする新興国で富裕層の次に位置する年間世帯年収1000ドルから5000ドル(10万円から50万円)の10億人です。通常は、ここで商売をしてもなかなか利益が出ないので、先進国の企業は、世帯(あるいは1人)あたりGDPを睨みながら、基本的には「待ちの姿勢」で事業展開を考えていきます。

しかしいくつかの理由で、GDPの増加スピードを超える形で市場が立ち上がる可能性があるというのが、このコンセプトの最大の特徴です。

まず、買い手の購買行動から。インド、中国、ブラジルのBCGオフィスが共同で研究した成果は興味深いものでした。18,000人について詳細な調査を行い、一部はビデオで編集されているのですが、住んでいる住居からは(失礼ながら)想像できないほど、商品に対する知識が豊富で、買い方も賢く、大型テレビ、冷蔵庫、DVDプレーヤ、携帯といった商品に対する購買意欲は旺盛です。

次に注目すべきは、それに対する売り手のイノベーションです。購買意欲は高く、ある程度の可処分所得があるとはいえ、先進国と同じ製品を同じ価格で売ることはできません。そこで、劇的に安いコストで生産し、かつ効率的に売るしくみが生まれつつあります。

例えば、携帯電話でこんな形のビジネスが成り立つ可能性があります。携帯端末は、特許料が安いフリーの技術を使い(例えばクワルコムへの特許料は端末あたり10ドルになることもあります)、高価な電子部品は使わずにソフトウェアで機能を実現します。で、先進国の10分の1の売価3千円の携帯端末の出来上がりです。(日本では携帯電話事業者が補填しているので安く買えるのですけれど、それはまた別の話)

通話料も先進国の10分の1に押さえて、かわりに銀行口座と健康診断プログラムをセットで販売します。何故なら、Next Billionの多くの人は、銀行や病院へのアクセスが悪い地域に住んでいるからです。実際、ボーダフォンケニアで携帯を使った銀行サービスを大ヒットさせていますし、近々インドではノキアシティバンクによる銀行サービスが始まります。また携帯を使った糖尿病治療プログラムも始まっています。

長くなりましたが、こうして先進国では想像もしないような技術やビジネスモデルを駆使して、GDPの上昇を待たずに一大市場が生まれる(あくまでも)可能性があるわけです。

日本企業は、「待ちの姿勢」でいると、この機会を逃す可能性があります。さらに想像を広げると、これらの商品がクリステンセンの言う「破壊的なイノベーション」として先進国市場にも拡大するとしたらどうでしょうか。グローバル市場の構図が一気に書き換えられる可能性もあります。(大前さんの言う「突然死」の一つのパターンでしょう)

今後10年〜20年は、とてもダイナミックな競争が繰り広げられると思うと、大変な時代だなあとと思うと同時に、ちょっとわくわくします。

話は少し変わりますが、いま30代〜40代のビジネスパーソンの方々には、このような視点ももってもらえたらと思います。市場にしても社内しても、既存の秩序での競争だけを考えると気が滅入るでしょうから。