太田直樹のブログ - 日々是好日

テクノロジーが社会を変える

鈴本夏祭り

先週の土曜は入れなかった鈴本夏祭り。今日は1時間以上前から並んで、ようやく鈴本の木戸をくぐりました(文中は敬称、すなわち○○師と言うべきところを略します)。

菊之丞はいいですね。今日の噺は「札入れ」でした。若いのに、演技に艶があります。反対に、正蔵(元こぶ平)は・・・うーん。ノーコメントですね。噺は「皿屋敷」でした。きっと落語は好きなのだと思うのですが・・・。

喬太郎は、新作の「路地裏の伝説」でした。父親の七回忌に同級生が集まって、昔の都市伝説について思い出を語り合う噺です。オチはほんとにバカバカしいオチなんですけれど、どこか昭和の懐かしさを感じさせます。それは、考え抜かれたストーリーと高い技術に裏打ちされているのだと思います。結構、心に残りました。

鈴本夏祭りは、さん喬と権太楼が主任を勤め、交代でトリをやります。今宵は、さん喬の「抜け雀」ときて、トリは大ネタの「居残り佐平次」を権太楼が演じます。さて、どんなだったかと言えば・・・

さん喬が良かったですね。「抜け雀」はそれほど笑える噺ではなくて、夏祭りにぶつけるのはすごいなあ、と思ったのですが、それはさん喬のこだわりでしょうか。今日の客は権太楼の佐平次を目当てできている。では、自分はちょっと趣向の違うものをぶつけてやれ。

この噺は、大げさに言えば「徳義」が描かれているのだと思います。登場人物は、そりゃあ落語の世界ですから、けっこういい加減なのですが、親と子の関係、宿の主人と絵師の約束が見せ場です。さん喬の「抜け雀」は他の人に比べると地の部分の語りが少ないのですが、会話のトーン、視線、間などで、この「徳義」を味わい深く描きます。そういうとき、場内はほんとにシーンとするのです。思わずぶるっと鳥肌が立ちます。

権太楼の「居残り佐平次」は、なんと言うか「いい佐平次」なんですよね。品川の遊郭で男4人がどんちゃんやって、さんざん遊んだあとで他の3人が勘定を気にすると、佐平次は自分は居残るからと3人を返します。さて、大変なことになるかと思えばなんのその、居残りに慣れた佐平次はいつの間にか店の人気者になり、最後にはまんまと金までもらって店を後にするのです。

演者によってもちろん異なる佐平次になるわけです。志ん生の佐平次はなんだか凄みがあるし、談志のはイリュージョンの真骨頂発揮で、何と言うんでしょう、一流のペテン師のようです。権太楼は、人柄でしょうかね。なんか佐平次が「いい奴」で、それがちょっとわたしには違和感があるんですよね。

幕が降りるときの表情は、私の勝手な感想ですが、「まだまだ」という感じでした。恐らく舞台の袖にいてさん喬の「抜け雀」の出来がわかっていたと思います。実際、今宵の権太楼は「今日はしっかりやります」とマクラもふらずにいきなり噺に入り、50分近くの熱演でした。しかしその熱意がちょっと空回りという印象でした。

去年の鈴本夏祭りは、「子別れ」の前編をさん喬、後編を権太楼がやり、それぞれの持ち味が生かされた素晴らしい出来でした。今年はちょっと違った感じになりましたね。

でも、また来年が楽しみです。